本研究は、英語圏カリブ・アフリカ地域の監獄文学の代表的なものをいくつか取り上げ、比較検討し、それらが脱植民地化の過程においてどのような意義を持っていたのかを明らかにするということを当初の目標としていた。結果としては、アフリカの監獄文学については十分な調査、執筆をすることができなかった。一方で、カリブ文学に関しては、当初の予定通り、一定の結果をおさめることができた。 例えば、2018年2月刊行の雑誌『多様体』にて、ジョージ・ラミングの初期作品およびエッセイの翻訳を、また、第三作目『成熟と無垢について』についての論考を掲載した。また、『年報カルチュラル・スタディーズ』第6号にて(2018年6月刊行予定)、ジョージ・ラミングと合衆国の作家リチャード・ライトを比較する論文を掲載することになっている。その他、本研究の主軸とはずれるが、2016年には、英文学者中野好夫が沖縄の「本土復帰」にあたって社会運動に関わった軌跡を批判的に論じたものを、『年報カルチュラル・スタディーズ』第4号に掲載した。 その他、重要な成果としては、C・L・R・ジェームズがニューヨークのエリス島に収監されているあいだに執筆したハーマン・メルヴィルをめぐって、論文を書いたが、現在のところまだ出版は決まっていない。この論文については、執筆過程で、コーネル大にて発表(2016年)、そして、関連した報告を台北(2017年10月)、トロント(2018年2月)にて行った。いずれも、今後の研究に必要なネットワーク作りとして重要であった。 今後は、これらの成果の執筆過程で向き合わねばならない問題として出てきた、冷戦期の文学(特に、カリブと東アジア)を、米軍占領期を共通項として比較するという作業にとりかかることになる。とはいえ、監獄と文学の関係性を脱植民地化の過程でのその意義を問い直しながら考えるということは継続していきたい。
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