研究実績の概要 |
代表者は本課題において、オーストラリア文学にみる「弱者表象」と「他者」の問題について、先住民、アジア系移民、難民その他マイノリティの文学資料(フィクション及びライフ・ライティング)収集と精査、分析を行ってきた。主流派の文学にみるマイノリティの描写変遷と特徴を取り上げ、その歴史的経緯と社会情勢との関わりについて考察し、一方における人種主義的イデオロギーや排他主義、また他方では社会包摂の意識と多文化主義が、いかに文学作品における他者表象に影響を及ぼしたかを明らかにしてきた。また当事者側の「語り」の変遷が、主流社会の言説及び当事者自身と環境の変化を投影していることが見出され、文学研究が社会に持ち得る意味についての知見を得た。 H29年度はことに難民表象に特化し、8月にメルボルン、2月にキャンベラに赴き、補足資料の収集と確認をした。また研究者、当事者、支援者との面談と研究打ち合わせを行った。また関連資料の翻訳を進めている。 成果としては、後述する共著「メンターを求めて―オーストラリアの女性離国作家たち」(『オーストラリア・ニュージーランド文学論集』)、論文“Testimony of War: Australian Memoirs and Fiction of the Pacific War”(Life Writing V.14, 2017 )、 国際学会発表“Connectivity in Literature: Australia-China-Japan”(Jiangsu Normal University, 2017)がある。 本研究の特徴は、対象をオーストラリアという多文化主義を政策とする国の文学としている点であり、世界のグローバル化・ボーダーレス化の流れの中、日本社会に示唆することが多いであろう。また社会を映す文学作品の役割について再考を促すことに貢献すると考えられる。
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