本年度は、昨年掘り起こした詩人ダガーンAugustine Joseph Hickey Duganneを中心にすえて研究を行った。 1840年代には多くの社会改革運動が花開いた。そのうち自由土地運動free soil movementは、新しい準州への奴隷制拡大に反対した自由土地党の運動として知られるが、もうひとつの自由土地運動があった。すなわち、東部の工場労働者たちへ西部の土地を無償で開放しようとする全米土地改革協会National Reform Associationの運動である。それは賃金労働という隷属状態に対するプロテストだった。この運動の代弁者となったのが「労働の詩人」と呼ばれたダガーンだ。 そこで、誤伝も多いダガーンの生涯をたどりながら、その思想や詩作を分析した。ダガーンによれば、聖書にみられる労働は労苦だった。しかし真の労働とは「神の祝福」だ。労働は自由と一体であって、労働を求める道が自由を求める道と重なる、と唱えた。ダガーンはそのような労働を実現する場として土地を求めたのである。神の自己定義が「有りて在る者」という問答無用の定義であるように、労働者の土地獲得は問答無用の権利である、と訴え、「土地のない人々」the Landlessが「のたうつ」様を描いた。 たしかに、その詩作は素朴で単純だ。けれども、農具や機械を「鉄の竪琴」iron harpととらえ、それらの響き合う音が労働者の歌を盛りあげる、と歌っているところなどは、労働者たちが歌う「さまざまな讃歌」を描いたホイットマンの詩「アメリカの歌声が聞こえる」を想起させる。それは非音楽的な硬質の音だが、逆にそこから硬い意志や誇りが伝わる表現だ。 20世紀の公民権運動や反戦運動にフォーク・ソングが貢献したように、19世紀の労働運動ではダガーンのような詩人の作品が労働者の士気を高めたのである。
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