最終年度の2019年度はこれまでの研究の総まとめとして、編著『空とアメリカ文学』の出版を主な仕事として進めた。研究代表者を含め10名の研究者を動員して、日本で初めての空や航空とアメリカ文学との関係を探った野心的な研究書ということもあり、当初は遅々として編集作業が進まず、一時は2019年度秋の出版が危ぶまれたが、幸い、夏期休暇の後半には一気に作業が進み、2019年9月に出版を実現することが出来た。 同書は19世紀前半から21世紀におよぶ200年におよぶアメリカ文学の歴史の中で主に「空」と「飛行」がいかに重要な足跡を残していたかについて探る試みである。扱った作家はエドガー・アラン・ポー、ハーマン・メルヴィル、マーク・トウェイン、ウィリアム・フォークナーといったアメリカを代表する作家たちに加え、アン・モロウ・リンドバーグやヒューゴー・ガーンズバック、レイモンド・カーヴァーやリチャード・パワーズといった紀行やSF、20世紀後半以降のアメリカ現代文学の旗手たちで、これだけの多岐に亘る文学ジャンルと長い時間軸で、空とアメリカ文学の関係を扱った研究書は内外にも存在しない。科研費による出版助成などの支援は仰がなかったが、本科研費での研究の深まりがなければ実現しなかった成果といえる。 研究代表者自身は、同書の序章としてアメリカ文化における航空史ををまとめる論考を発表し、加えて同書第7章として、1930年代のアン・モロウ・リンドバーグによる東アジア飛行のベストセラー紀行『翼よ、北に』における、現実と非現実の相克、女性と飛行の問題、日米関係と同飛行の繋がり、暴力と飛行の関係などについて精査した論考を著した。今後はこの成果をさらなるアメリカ飛行文学研究につなげていく予定である。
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