研究課題/領域番号 |
15K02364
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 和夫 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50194056)
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研究分担者 |
清水 重夫 早稲田大学, 法学学術院, 名誉教授 (00130873)
三神 弘子 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (20181860)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナショナル・アイデンティティ / イェイツ、W・B、 / ジョーダン、ニール / ローチ、ケン / 復活祭蜂起 / 独立戦争 / 内戦 |
研究実績の概要 |
2015年度研究実績 及川和夫はナショナル・アイデンティティの問題を国民国家成立時点から振り返り、第41回イギリス・ロマン派学会全国大会(奈良教育大学、2015年10月18日)のシンポジウム「アイルランドとロマン主義―「国民国家」と文学―」で司会と発題を担当した。その報告は『イギリス・ロマン派学会会報』No.40に、またその要旨は『イギリス・ロマン派研究』第41号に掲載予定である。また2016年2月29日から3月24日まで、アイルランドで資料収集と研究打ち合わせを行い、現在第1次世界大戦前後のイェイツに関する論文を執筆中である。 三神は弘子、北アイルランドにおける和平交渉のただ中で制作されたニール・ジョーダンの『マイケル・コリンズ』(1996)、その10年後に制作されたケン・ローチの『麦の穂をゆらす風』(2006)を取り上げ、「独立戦争」「自由国」「内戦」「共和国」がどのように表象されているか検討を進めた。『マイケル・コリンズ』については、復活祭蜂起と内戦という異なった歴史的文脈において、同じBGMと類似したショットが反復されていることに注目し、何重にも重ねられた類似性の背後で見え隠れする<パラドックス>を通して、ジョーダンが語る「コリンズの物語」の意味をさぐった。『麦の穂をゆらす風』については、定点観測を促す一軒の家に注目し、イェイツとグレゴリーによる<家>のメタファーがどのように表象されているか論じた。 清水重夫は、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の10挿話から18挿話までを再検討し、早稲田大学の社会人講座で発表した。また1916年の復活祭蜂起について、その歴史と、ピアス、コノリー達の足跡、その後の内戦を経たコリンズ、デヴァレラ達の活躍、そして自由国の独立の後を追い、その成果は3月26日に日本アイルランド文学会の会で、『復活祭蜂起とアイルランド文学」というテーマで講演をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は初年度なので、各自基礎的な研究基盤作りに力点を置いた。今年はアイルランド独立の原点となったイースター蜂起の100周年に当たり、及川は蜂起に関する各種のイベントで講演や詩の朗読解説を行った。三神は映画における蜂起とその周辺の分析に力を注いだ。清水は蜂起とそれ以後の独立戦争、内戦の分析に集中し講演を行った。その成果は年数度の会合や、頻繁なメールのやり取りで相互に確認した。 今年度の研究で明らかとなったことは、蜂起から独立戦争に至る歴史的過程でアイルランド国民を大きく動かした、ユナイテッド・アイリッシュメン、ヤング・アイルランド、フェニアン運動などの神話的イメージであった。この神話的イメージが、イェイツの詩や演劇、ジョイスやロディ・ドイルの小説、現代映画作家の作品にどのように作用しているかを今後さらに究明していきたい。 また及川は2016年2月29日から3月24日までの研究出張期間中に、研究協力者であるユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)のアン・フォガーティ、P・J・マシューズと研究打ち合わせを行い、現代アイルランドにおけるイースター蜂起観の最新の動向について意見交換を行った。今年の100周年記念に関して見られる顕著な特徴は、従来男性リーダーを中心に見られてきた蜂起の動向を女性のになった役割という観点で再検討する傾向である。また当時の英国政府へ対する「蜂起」から、独立戦争の原点としての「革命」と捉える傾向が鮮明になってきている。2016年度以降はこれらの観点も検討することが課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度研究計画 及川はパトリック・カヴァナーの作品を集中的に考察する。彼の標榜する「地域主義」(parochialism) は、ヒーニーやポール・ダーカンなどの後の有力な詩人たちにも大きな規範となっている。彼の反骨の精神はいかにして形成されたか、またそこにはいかなるアイルランド人としてのヴィジョンが込められているかを、長編詩 The Great Hunger、自伝 The Green Fool(1938)、自伝的小説 Tarry Flynn(1942)、ジャーナリズムでの仕事から辿っていく。 三神はブレンダン・ビーアンの The Hostage(1958)を取り上げ、IRAの国境闘争にみられるような時代性と、作品のミュージックホール的な特性を検討することで、ナショナル・アイデンティティの変化を検討する。 清水はロディ・ドイルの作品を集中的に取り上げる。とくに A Star Called Henry(1999)に始まるHenry Smart を主人公とする 3 部作、Oh, Play That Thing!(2004)、The Dead Republic(2010)を研究の主な対象とする。これらの作品はは復活祭蜂起、独立戦争から北アイルランド紛争までの時期を扱い、 アメリカの大衆文化を巧みに織り込みながら、まさに半世紀にわたる、アイルランドのナショナル・アイデンティティの推移を分析する予定である。 またユニバーシティ・カレッジ・コーク(UCC)の政治学者、リアム・ウィークスが今年度早稲田大学に客員研究員として滞在するので、研究協力者として政治学の立場から講演会やシンポジウムを開催して討議、意見交換を行う予定である。また各自アイルランドへ研究出張を行い、UCDのフォガティ、マシューズの両氏と意見交換、研究打ち合わせを継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
これは大部分、研究分担者の清水重夫が、体調不良のため、年度末に予定していたアイルランドへの研究出張を直前に断念せざるを得なかったことによるものである。そのため田に必要な書籍などに支出する十分な余裕もなく、次年度に昨年度の割り当て分、33万円をそのまま持ち越してより有効な使用をするのが賢明であるとの判断に至った。 また研究代表の及川和夫がアイルランドへ研究出張した際、支出項目間の調整が付かず、2490円の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、清水は体調を調整して、より良い条件での研究出張を予定している。また書籍、機材などの物品費も端数が出ないよう調整する予定である。
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