研究課題/領域番号 |
15K02364
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 和夫 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50194056)
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研究分担者 |
清水 重夫 早稲田大学, 法学学術院, 名誉教授 (00130873)
三神 弘子 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (20181860)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナショナル・アイデンティティ / アイルランド自由国 / カトリシズム / W・B・イェイツ / ジョン・ボイン / 復活祭蜂起 / ロディ・ドイル / トマス・ムーア |
研究実績の概要 |
及川はイースター蜂起からアイルランド独立戦争の時期のW・B・イェイツの詩の文体の変遷を考察し論文を執筆した。イェイツのこの時期の作品は、現実の事件や人物に取材することが多くなっている。しかしそれらの作品は最終的に人間の存在と行為の関係というレベルに最終的に収斂していく。またトマス・ムーアの先駆性を論じ、後続の文学者、とくにイェイツとの関係を考察した。またパトリック・カヴァナーの作品の再読と研究書、関連資料を精査し、論文執筆の準備を行った。 三神は、当初の計画では、ブレンダン・ビーアンの劇The Hostage (1958)を取り上げ、1950年代におけるナショナル・アイデンティティが、独立当初のそれと比較してどのように変化したか検討する予定であった。しかし、国とカトリック教会との関係を検討しておく必要性が生じ、17世紀の宗教改革の時代から21世紀に至るまでの、国家とカトリック教会の関係の変遷について分析を行った。特に、1964年から2013年に至るまでの時代を扱った、ジョン・ボインの小説『孤独の歴史』(A History of Loneliness, 2014)を分析することで、現代アイルランドのカトリック教会が直面する諸問題を検討した。 清水は当初の計画では、ロディ・ドイルの作品を取り上げ、その手始めにA Star Called Henry(1999)の検討を始めたが、復活祭蜂起に関する作者の考えと、以前参考にしていた映画、ジョーダンの『マイケル・コリンズ』(1996)、ロウチの『麦の穂を揺らす風』(2006)との考えの間に基本的齟齬があるのではないかという疑問に行き当たった。従ってドイルの3部作の、アメリカの生活を描いたOh,Play That Thing!(2004),そしてアイルランドに帰還してからを描いたThe Dead Republic(2010)の検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3人ともアイルランドのナショナル・アイデンティティという問題を誠実に追求する過程で新たな問題に直面したため方向修正をする必要が生じ幾分かの遅れが生じた。及川は20世紀に至るまでのアイルランド文学者の原型としてのトマス・ムーアの追求に時間が取られ、予定していたパトリック・カヴァナーの論考が遅れた。 三神はブレンダン・ビーアンを研究する過程で、アイルランド国家とカトリック教会の問題に突き当たり、ジョン・ボインの研究にシフトを行った。またその過程で17世紀の宗教改革の時代から現代までの国家とカトリック教会のあり方の再検討を行った。 清水はロディ・ドイルの三部作の第一作を検討する予定が、復活祭蜂起の歴史的位置づけの問題に行き当たり、第二作、第三作の検討に時間を費やした。また大病を患い、その治療と回復に多大な時間とエネルギーを費やさざるを得なかったことも事実である。
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今後の研究の推進方策 |
及川は遅れているパトリック・カヴァナー研究を進め、最終目標のシェイマス・ヒーニー研究に進む予定である。またそのためにアイルランド・ナショナル・ライブラリー、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)図書館などで資料収集、調査を行い、研究協力者と意見交換を行う。 三神は、ビーアンのThe Hostageを、IRAの国境闘争に見られるような時代性と、作品のミュージックホール的な特性を検討することで、1950年代のアイデンティティの有り様を検討する。さらに、北アイルランド紛争の初期(1970年代)にベルファストで初演されたパトリック・ガルヴァンのWe Do It for Love (1975)、グレアム・リードのThe Death of Humpty Dumpty (1979)をとりあげ、これらの作品が和平合意を経た今日の視点でどのように再評価されるか検討を加える。 清水は更に引き続いて、ロディ・ドイルのまとめをするとともに、その関連で、セバスチャン・バリーの作品の検討に入る。彼には独立戦争前後を扱う作品が多いが、イギリス側の人々の視点で描いているのが特徴である。The Whereabouts of Eneas McNulty(1998)、The Secret Scripture(2008)は両作品独立戦争動乱の犠牲者と考えられる兄妹を描いた作品である。これらの作品の検討によって、従来のフィニアン史観やリヴィジョニズムでは浮かんでこないナショナル・アイデンティティの姿が浮き彫りにするであろう。 これらの研究成果は、秋に予定している国際シンポジウムで、研究協力者であるUCDアン・フォガティ教授、P・J・マシューズ教授を交えて発表し、討論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の清水重夫名誉教授が初年度から体調がすぐれず、昨年度は大病を患ったため、その治療、回復のため多大な時間とエネルギーを要したため、その使用予定の分担金が2年度分使用することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
清水名誉教授は昨年度治療に専念したため回復を図り、今年度は資料、書籍、機材の購入、海外への研究出張で使用する所存である。またそれでも余裕がある場合は、秋に予定している国際シンポジウムへの海外研究者の招聘に使用する。
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