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2015 年度 実施状況報告書

20世紀初頭のアイルランド小説における階級表象について

研究課題

研究課題/領域番号 15K02371
研究機関西南学院大学

研究代表者

河原 真也  西南学院大学, 文学部, 准教授 (80454924)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワードアイルランド小説 / 階級
研究実績の概要

本年度は20世紀初頭のアイルランドの社会状況を、歴史的資料を用いて検証する作業を中心とした。まず社会史について、Terence Brownの"Ireland: A Social and Cultural History 1922-2001 (2004)"をもとに、「じゃがいも大飢饉」後に大きく変容した19世紀後半以降のアイルランド社会におけるいくつかの事象を取り上げ、アイルランドにおける一般的な見解を確認した。
加えて、Diarmaid Ferriterの"The Transformation of Ireland: 1900-2000" (2004)によって、21世紀の視点からみたアイルランド史の枠組みに基づき、アイルランドにおける中流階級の実態を、19世紀後半から検証する作業も行った。この著作において言及された、20世紀初頭のアイルランド史に関する歴史研究書のいくつかにあたれたことも収穫であったといえよう。特にSenia Pasetaの"Before the Revolution" (1999)は、アイルランド独立以前の中等教育と「階級」との結びつきを探るうえで極めて有意義な資料であり、階級問題を考察するうえで中等教育の重要性を再認識することができた。
本年度後半からは、19世紀後半の世論の動向を把握するため、ナショナリスト系日刊紙"Freemans Journal"やユニオニスト系日刊紙"The Irish Times"の記事をいくつか精査することで、独立前のイデオロギーの異なる世論を確認するに至った。これはいくつかの出来事に対して、階級間で異なる考え方が存在していたことを立証するための作業である。
最終的には、「大学問題」と階級との関わりをもとに、James Joyceの"Dubliners"にみられる「階級」表象に関する小論を発刊することができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

学内の学生担当の役職に就いていたことももあり、長期間の海外出張が叶わず、アイルランドでの調査が十分にできなかった。だが、それ以外の文献、主に歴史研究書に基づく検証はすでに基本資料が整っていたこともあり、順調に進んだと言える。

今後の研究の推進方策

歴史的事実をもとにJames Joyceの作品において当時の階級問題がどのように描写されているか検証する。対象となるテクストは、前年度に扱った"Dubliners"(1914)に加え、 "A Portrait of the Artist as a Young Man"(1916)や"Ulysses"(1922)の2作品も対象とし、引き続きさまざまな「階級」表象を精査したい。
"Portrait"については、教養小説の範疇に入るが、そこに描きだされた「中等学校」はイングランドのパブリック・スクールを模したものであり、その生徒は中流上層階級の子弟がほとんどであった。そういった当時の中流上層階級に属し、私立の寄宿舎学校に通う子弟の考え方や行動パターンなどを確認することで、「階級」表象のもつ意味について考察を加えたい。
さらに、ジョイスが"Dubliners"を執筆する際に、そのテーマと形式の一部を模倣したとされるGeorge Mooreの"The Untilled Field"(1903)も、農村における階級問題を扱ううえで大いに参考となろう。「都市」を舞台とするジョイス作品と異なり、「農村」を扱うことが多かったMoore作品における「農村」描写は、20世紀初頭のアイルランドにおける階級問題の多様性に視点を向けるうえで指針を与えてくれるはずである。そして、Mooreの"The Lake" (1905)も、"The Untilled Field"とともに、アイルランドの「農村」を舞台としたものであるが、ここには次年度扱う「聖職者」小説の要素も含んでおり、「聖職者」に注目する研究の先駆けとして検証対象に加える。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2016

すべて 図書 (1件)

  • [図書] ジョイスの罠-ダブリナーズに嵌る方法2016

    • 著者名/発表者名
      金井嘉彦、吉川信
    • 総ページ数
      440
    • 出版者
      言叢社

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公開日: 2017-01-06  

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