研究課題/領域番号 |
15K02371
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
河原 真也 西南学院大学, 文学部, 准教授 (80454924)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アイルランド文学 / ジェイムズ・ジョイス / ジョージ・ムア / 階級 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度検証した20世紀初頭のアイルランドにおける社会状況をもとに、ジェイムズ・ジョイスやジョージ・ムアの小説において、社会問題として階級がどのように表象されているかを検証した。 対象としたテクストは、_Dubliners_, _A Portrait of the Artist as a Young Man_, _The Untilled Field_である。各作品の登場人物の出自、思想等をテクストから抽出し、アイルランド社会における階級問題へとつなげたが、主に注目したのは教育という視点である。当時の中流階級の子弟は、属する階層や宗派によって通う学校が異なっていたり、高等教育へ進むカトリック教徒の数が限定されたりしていた。これらの諸相に目を向けることで、下層から上層に至る中流階級各層の子弟の社会問題に対する考え方や行動パターンをあぶり出すことが可能となった。ジョイス作品はダブリンという「都市」を舞台とするが、一方のムア作品は「農村」を舞台とすることが多かったため、20世紀初頭の「都市」と「農村」との比較が容易となり、結果的にアイルランドにおける階級問題の多様性を把握できた点は特筆に値する。 また当時の階級を理解するうえで、Horace Plunkettの_Ireland in the New Century_(1904)は、アイルランド社会における階級格差や宗派対立を考察する際、有益な情報を提供してくれた。プロテスタントであったPlunkettが、カトリック教徒の自立を推進しようとしていた事実は、彼自身が主導した"Co-operative movement"にカトリック系作家の多くが関わっていたことの意味を明らかにすることとなり、アイルランド文芸復興期の文芸サークルの新たな一面を見出すことができた。この時期の社会史を裏付ける資料としても今後大いに活用できよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は校務の関係で、10月以降、研究に従事する時間が制約されることがあった。予定していた定期刊行物の検証に十分時間が割けなかった面もあるが、おおむね順調に消化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
アイルランドにおける階級を考えるうえで、19世紀後半以降、聖職者の数が激増していた点に注目し、階級問題と密接するであろう「聖職者」を検証対象に加え、引き続き20世紀初頭のアイルランド小説を掘り起こしていく。研究最終年度であることから階級表象の総括も行う。 本年度は、Catherine Candyの_Priestly Fictions: Popular Irish Novelists of the Early 20th Century_(1995)を道筋として、これまで「聖職者」を扱った小説や農村教区を舞台としたアイルランド小説を掘り起こしていくが、主としてCanon Sheehan, Gerald O’Donovanを主な検証対象とする。その際に彼らが描く農民と聖職者との関係に着目し、その時期の社会風潮に反映させながら、階級問題へと発展させていく。 19世紀後半以降のアイルランド社会を形づけるものとして「農村」のもつ意味が大きいと指摘したのはTerence Brownだが、その実例を見い出せる作品として、本研究ではO’Donovanの_Father Ralph_(1913)を取り上げ、これを集中的に解読していく。同じく「聖職者」と「学校」という観点からアイルランドの農村社会を描いているのがCanon Sheehanである。彼の作品は、20世紀初頭のアイルランドの中流階級を理解するうえで欠かせない資料とされており、_My New Curate_(1900)も検証対象に入れ、農村社会の実情だけでなく、彼の作品の読者でもあった中流下層階級に属する人々の思想形成の背景を探り出したい。そして最終的には、農村、カトリック教会(聖職者)、学校という3つの視点から、アイルランド小説における階級表象の総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国外出張の際に購入した航空券代が予想よりも若干少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
2018年度は国外出張旅費の予定額を早めに確定させたうえで、書籍購入他を行う予定である。
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