本研究はJames Joyceら、20世紀初頭のアイルランド社会を扱った小説において「階級」がどのように表象されていたかを検証することで、当時の社会問題への作家の意識を明らかにすることである。プロテスタント(支配者)対カトリック(被支配者)という宗派対立の構造が強調されてきた従来のアイルランド研究に対して、本研究ではカトリック系アイルランド人の中に存在した階級対立の構造を、学校や聖職者を扱った小説の中に見出し、20世紀初頭のアイルランド社会の新たな一面を掘り起こしながら、負の歴史に傾きがちなナショナリスティックなアイルランド文学研究からの脱却を試みた。
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