研究課題/領域番号 |
15K02374
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研究機関 | 倉敷市立短期大学 |
研究代表者 |
安達 励人 倉敷市立短期大学, その他部局等, 教授 (60249555)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 沈黙 / 視聴覚翻訳 / 映画 / 吹き替え |
研究実績の概要 |
研究計画に基づいて,本年度は本研究の基礎となるデータ構築と予備的研究に取り組んだ。具体的な実績は次の通りである。 まず,予備的研究として,本研究と同じ方法を用いて,作中の間と沈黙のデータ抽出と分析とを試みた。その成果を"Dubbing of silences in Hayao Miyazaki's Spirited Away: A comparison of Japanese and English language versions"として論文にまとめ,Perspectives: Studies in Translatology, 24(1)に発表した。この論文の意義は,本研究で用いる方法の有効性の点検と,それによって得られるであろう結果について1つの仮説を示した点にある。 次に,本研究の基礎資料の収集方法に関する課題を指摘するために,論文「日米映画の翻訳における沈黙分析のための作品収集の課題」を執筆し,『倉敷市立短期大学研究紀要』第59号に発表した。研究の基礎となるデータ収集のあり方を再検討することによって,本研究において対象となる国やジャンル等に必要な修正を加えた。 さらに,本件を周辺からサポートする研究として,英語に翻訳された日本アニメーションの語学教材としての特徴を,言語・文化面から指摘するために,バンコクで開催されたThird International Conference on Language, Literature and Society 2016において,"The Problems and Possibilities of Using English Translations of Japanese Animated Works as EFL Materials for Japanese College Students"のタイトルで口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備的研究を終え,今後の研究の手順を確定するとともに,予想される結果について大まかなマッピングができた。現在は,本研究の基礎となるDVDを,日本,アメリカ,中国,韓国,フランス,スペイン,ドイツの7か国から集め,大量の音声データの抽出を行っている。これまでに予期しなかった対応を要した問題は,まず,ブルーレイディスクの台頭により,DVDでの入手が難しい作品がこれまで以上に増えてきたことである。次に,本研究の精度を高めるため,比較対象国として新たに韓国を加えたことによって,データ収集に長い時間を要するという事態にも直面した。しかし,あくまで想定範囲内の部分的な遅延であり,今年度の前半には,計画した日程に追いつくことが可能であることから,研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にしたがって,2016年度と2017年度には,日米映画の原語版と7カ国(アメリカ,日本,中国,韓国,フランス,ドイツ,スペイン)の翻訳版を対象に,国別,ジャンル別,時期別に,沈黙がどのような規範の下にどう脚色されているかを検討する。具体的には,まず,沈黙の位置と長さを,音声編集ソフトを用いて検出する。これらの結果を基に,翻訳の過程における沈黙の数と位置の変化を記述した「日米映画の沈黙データベース」を構築する。 さらに,2018年度には「日米映画の沈黙データベース」を完成させるとともに,量的研究の成果を,沈黙の機能に関する事例研究へと段階的に掘り下げる。 2019年度には,日米映画における沈黙の脚色についての主要な特徴と翻訳過程における変遷について総合的・系統的に考察し,現象の理論化を目指す計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は,物品費のうち基礎データとなるDVD購入のための予算執行が,一部遅延したことである。具体的には,作品リストの修正が必要になったことから,作品収集までに,予定より3か月程度の時間を余分に要した。 「進捗状況」でも触れたとおり,この遅延の背景には,現在がDVDからブルーレイへの過渡期にあるという状況がある。欧米だけでなく,アジア地域(特に台湾と香港,韓国)においても,ブルーレイの普及が予想以上に進行している。例えば,旧作DVDであっても再版はブルーレイのみといった作品もあり,当初は,在庫切れを理由に販売店側から受注をキャンセルされるケースが続いたため,今年度の最新情報を基に,市場で実際に入手可能なDVD作品を慎重に検討し直す必要があった。
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次年度使用額の使用計画 |
助成金の使用計画そのものには大きな変更はない。次年度使用額は,翌年度分として請求した助成金と合わせて,吹き替え翻訳されたDVD作品の購入に充てる。DVDの発注率はすでに9割近くに達しており,2016年3月末には間に合わなかったものの,2016年5月末現在までに,注文した全作品の購入を終えた。残りの約1割の作品(約100本)については,更新したリストに基づいて順次購入を進めているところであり,遅くとも今年度(平成28年度)6月中には発注を完了する見込みである。
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