研究課題/領域番号 |
15K02376
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩津 航 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (60507359)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神話と文学 / ユダヤ人 / フランス文学 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績として、研究発表2本が挙げられる。 平成29年11月4日には、石川県文教会館で開催された日本比較文学会関西大会において、シンポジウムのパネリストとして登壇し、「フォンダーヌとユリシーズ神話の現代性」と題する講演を行った。会場での質疑応答において、神話とモダニズムをめぐる議論を展開し、学界への貢献を果たした。 平成28年12月2日には、富山大学で開催された日本フランス語フランス文学会中部支部大会において、「変身と幽霊──イラリエ・ヴォロンカの散文作品におけるアイデンティティの問題について」と題する研究発表を行った。本研究は、科研費によって収集した1940年代の散文作品を基礎として作品分析を行ったものであり、「変身」と「幽霊」をキーワードに、ヴォロンカ特有のアイデンティティの揺らぎのうちにみられる希望と絶望のバランスを、一種の存在の劇として読み解いたものである。ヴォロンカによる神話の再解釈も分析対象とした。本発表を基にした投稿論文は、現在査読中である。 さらに平成30年2月28日から3月5日にかけて、ブエノスアイレスに滞在し、アルゼンチン国立図書館でフォンダーヌの記事を掲載した一次資料(ブエノスアイレスで刊行された文芸誌、新聞、およびパリでアルゼンチン人が刊行したフランス語の文芸誌)をほぼすべて調査した。これにより、記事が掲載された雑誌の他の執筆者や記事の主題傾向を確認し、当時のフォンダーヌがアルゼンチン文壇においてどのような文脈で受容されたかを検証することができた。また、フォンダーヌが監督した映画『タラリラ』(1936)の原作小説のフランス語訳に関する記事も発見した。これらの成果は、平成30年度中に論文として発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はバンジャマン・フォンダーヌとイラリエ・ヴォロンカという二人のルーマニア出身のユダヤ系フランス語詩人の作品分析を通じて、亡命文学者における神話の意味を解明することを目的としている。平成29年度は研究の明らかな進捗を図ることができた。 フォンダーヌ研究については、学会シンポジウムでの発表を通じて、フォンダーヌの詩集『ユリシーズ』の解釈について、ヨーロッパ文学史におけるオデュッセウス神話の変奏を視野に入れたうえで、ユダヤ人にとってのギリシア神話の意味を分析した。また、研究計画書に記したアルゼンチン国立図書館(ブエノスアイレス)での文献調査を実施した。その際、平成28年度に金沢大学に招聘したアメリカのフォンダーヌ研究者から、いくつかの助言を受けた。調査の結果、フランスとルーマニアに収まらない作品受容の広がりを確認することができた。 また、ヴォロンカ研究については、平成27年度以降に収集した散文作品を中心に読解を試み、平成29年度にその成果を学会で発表した。その際、平成27年度にパリでインタビューしたヴォロンカ研究者との意見交換が大いに役立った。このように、科研費によって実現した研究資料の収集と研究者との交流の継続のおかげで、フォンダーヌおよびヴォロンカについての研究を着実に推進し、亡命文学者にとっての神話の意味の解明を前進させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、フォンダーヌ研究については、アルゼンチン国立図書館で調査した文献を整理し、その成果を論文として公表する予定である。アルゼンチン文壇におけるフランス語表現のユダヤ詩人の位置付けを分析するとともに、フォンダーヌの二度のアルゼンチン旅行と密接に関わる『ユリシーズ』や『タイタニック』といった神話に依拠した作品が、アルゼンチンで紹介されたことの意義を考察する。アルゼンチンにおけるフォンダーヌについては、映画制作をめぐる調査はされているが、詩作品との関わりについては先駆的な研究となる。ヴォロンカ研究においては、平成29年度に行った学会発表の内容を論文として発表すべく、すでに査読付学会誌に投稿している。「変身」と「幽霊」をキーワードに、ヴォロンカ特有のアイデンティティの揺らぎのうちにみられる希望と絶望のバランスを、一種の存在の劇として読み解いたものであり、フランスにおける先行研究にはない、ヴォロンカの散文作品に関する画期的な論文となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度における教育業務の想定外の遅延(7月中旬のフランスにおけるテロ事件を受けた学生フランス語研修を3月に延期)のため、春季休暇中に予定していたアルゼンチン国立図書館への文献調査出張が実施できず、1年度分、受給期間を延長した。アルゼンチン出張は平成29年度に実現したが、当該年度中に予定していた別の文献調査出張を実施することはできず、残額が出てしまった。平成30年度予算は、図書購入費、学会における研究発表の旅費、文献調査のための海外出張費(もし困難な場合は海外研究者の招聘費)に使用する計画である。
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