研究実績の概要 |
2018年度の研究成果として、学術論文「変身と幽霊――イラリエ・ヴォロンカの散文作品におけるアイデンティティ」(『日本フランス語フランス文学会中部支部論集』第50号、日本フランス語フランス文学会中部支部、2018年6月、査読有)を発表した。科研費で購入した1940年代の散文作品を考察したもので、従来のヴォロンカ研究では触れられることのなかった散文作品と詩作品との間にある緊張関係、および散文と詩に通じる神話的表現の意義を解明した。 また、2017年にアルゼンチン国立図書館で実施した文献調査の結果を基にして、研究発表「フォンダーヌとアルゼンチン:もうひとつのオデュッセイア」(金沢大学人文学類シンポジウム、金沢大学、2019年3月21日)を口頭で行った。フォンダーヌがスペイン語で発表した15篇のテクストがどのような文脈において紹介されたかを分析し、フランスとスペイン語圏にまたがる詩的運動を視野に入れてフォンダーヌを論じた、おそらく初めての論文である。この発表内容を含む研究成果は、国際学術誌Alkemie(Classiques Garnier, Paris)へ「Fondane en lettres argentines」と題するフランス語学術論文として投稿済みであり、査読を通過して、2019年7月に掲載予定である。いずれも神話と亡命文学の関係を論じたものである。 2019年2月には、ルーマニアのティミショアラおよびブカレストで、研究者との情報交換、および文献調査を実施し、新たな知見を得ることができた。この出張調査を通じて、ルーマニアのユダヤ文化、フランスのポスト象徴主義文学、アルゼンチンのモダニズム文学を射程に収めたうえで、神話と詩と歴史が絡み合うフォンダーヌおよびヴォロンカの全体像を解明することが今後の研究課題であることを明確にすることができた。
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