本研究は、フランスの作家プルーストの長編小説『失われた時を求めて』のうち充分に研究が深められていない後半部(第4篇『ソドムとゴモラ』、第5篇『囚われの女』、第6篇『消え去ったアルベルチーヌ』、第7篇『見出された時』)に対象を絞り、それがどのような政治、社会、文化などの歴史的背景をもとに成立したものであるか、それらの事象が作中でいかなる有機的機能を果たしているかを総合的に調査、考察して、プルースト文学の独自性と普遍性の秘密を解明するとともに、その成果を『失われた時を求めて』後半の翻訳・注解にて一般読者に公開することを目的とする。 平成27年度は第4篇を、平成28年度は第5篇を、平成29年度は第6篇を、平成30年度は第7篇をを中心に採りあげ、それぞれの巻の歴史的背景がいかに小説にとり込まれているかを考察した。その際、『プルースト書簡集』をはじめプルーストの各種刊本の索引などを利用して、本作にあらわれた政治や社会の事件、文学・絵画・音楽・建築・演劇・バレエ・装飾芸術・写真などの文化事象を調査した。それら受容の実態を明らかにできる当時の資料を収集・解読し、さらに『失われた時を求めて』の関連作品、『プルースト書簡集』、プルーストの伝記や個別研究などの文献をあらためて読み直し、フランス国立図書館が所蔵する創作メモ帳、草稿ノート、タイプ原稿、校正刷などの関連資料も解読したうえで、政治・外交・文化などの分野別に、作家が実際に受容し作中に採りいれた事件や作品について、作家がどのような評価をしていたのかも調査した。 そのうえで『失われた時を求めて』において表現されている歴史的背景と創作との関係について考察し、その成果を研究集会で発表するとともに、内外の専門誌などに論文を寄稿した。またその一部を刊行中の『失われた時を求めて』の訳注や解説に採りいれ、日本の一般読者に公開した。
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