『失われた時を求めて』には、現実とフィクションを微妙に交錯させることで小説の効果を高めている箇所が多い。その現実とフィクションの関係について、『失われた時を求めて』の成立基盤について、新たな見取図を描くことができた。とくに本作後半において重要な役割を果たす同性愛や第一次世界大戦の背景を明らかにすることにより、とかく観念的に解読されがちな『失われた時を求めて』を当時の歴史状況のなかに位置づけることができ、これにより従来「創作の秘密」とされてきた作家の現実受容と創造との関係をより実証的に解明する可能性が拓けた。
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