2015年度から2018年度までの4年間の研究の成果は、以下のことである。17世紀末から18世紀のフランスの文壇に起こった恋愛論争の最も重要な源泉が、一方ではアプレイウスの『黄金のろば』所収「プシュケの物語」とそれを17世紀に翻案したラ・フォンテーヌの『プシシェとキュピドンの恋』の中に、他方ではマドレーヌ・ド・スキュデリーの大作『クレリまたはローマ物語』とその「恋愛地図」の中にあること、それらの源泉から恋愛論の諸テーマを汲み取った17-18世紀の作家たち(ドーノワ夫人、シャルル・ペロー、カトリーヌ・ベルナール、レリティエ嬢、ヴィルヌーヴ夫人、ルプランス・ド・ボーモン夫人など)が、サロンのような現実の場のみならず、それぞれの著作間で恋愛論争を展開したこと、その結果、それらの著作間に緊密な間テクスト性(セリー)が形成されていることを明らかにした。この恋愛論争の大きな結実が1740年に発表されたオリジナル版『美女と野獣』(ヴィルヌーヴ夫人)であるが、本邦未訳だったこの著作を翻訳し、それについての詳しい解説をつけて2016年12月に白水社から刊行したことも本研究の重要な成果である。さらに、2016年10月にはフランスの哲学者ジゼル・ベルクマン氏を、2017年10月にはフランスの18世紀文学研究者シルヴァン・ムナン氏とジュヌヴィエーヴ・アルティガス=ムナン氏、さらにプルースト研究者吉川一義氏を招聘して研究集会を開催し、本研究課題に関する各専門家による豊かな知見を論文集として首都大学東京の紀要に掲載することができた。2018年には、シャール、ボシュエ、シモンなどの哲学・宗教的著作に対象を拡げ、異なる作家による複数の著作間の対話的関係ないしは間テクストに光を当てた。現在は本仮題の研究成果をまとめた著書を準備中であり、2020年度中に白水社から出版する予定である。
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