本年度はベルナール・ハイツィックに代表されるフランス音声詩を他の言語圏、他のジャンルとの関係を明らかにすることに費やした。まず日本比較文学会東京支部例会にて英語圏の音声詩、とりわけブライオン・ガイシンおよびリチャード・コステラネッツの音声詩作品とベルナール・ハイツィックを比較し、フランス音声詩、とりわけハイツィックの詩が他の音声詩と異なりテクストとの緊密な関係を持つこと、つまり彼の詩は音声表現のみによって成り立つのではなく、むしろ音声とページに書かれた「視覚詩」的な側面との間に存することを明らかにした。この研究を出発点として、ブライオン・ガイシンの作品については、作品そのものおよび彼のフランス音声詩人たち(ハイツィック、アンリ・ショパンなど)との実際の交流についての研究の必要性を強く感じた。今後の研究課題となるだろう。 また近年フランスで盛んになってきている詩とパフォーマンスの研究を前提として、ハイツィックの詩とパフォーマンス(朗読)について、クリスチャン・プリジャンの「書かれたものの声」の概念を経由して検討し、その論文をウェブジャーナルのSavoir en prisme誌に提出した。査読結果は条件付きアクセプトで、訂正、加筆修正をして再提出し、現在査読結果を待っている段階である。この研究がもたらした成果は、音声詩において録音と朗読が互いにどのような関係を持っているかを明らかにする端緒を得られたということである。音声詩は録音メディアの活用をその中心的なコンセプトにしてきたが、他方で朗読というパフォーマンスを捨て去るどころか、それを契機に新たなジャンル(パフォーマンス詩)を作り上げてきた経緯がある。それをテクノロジー的な退行ととらえるのではなく、むしろそれを音声詩というジャンルの拡大としてとらえられるようになり、その点においてこの論文は当研究にとって大きな成果であった。
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