研究代表者は、平成29年度からネオ・ジャクソニスム研究の総決算として、近年ますます再評価の機運が高まっている精神科医ピエール・ジャネの精神病理学理論と精神療法論に関する専門書の執筆に取り組んできた。ネオ・ジャクソニスム的視点を導入することにより、これまで断片的な理解しかされてこなかったジャネ理論の統一的な全体像を示すことが可能になり、各時代ごとの変遷も有機的に示せるようになったと考える。また、社会史的視点を導入した平成27年以降の研究により、ジャネが生きた19世紀後半から第一次世界大戦にかけての激動の時代に、どれほど精神医学や「心理療法」が人々から希求され、発展していったかを示せるようになった。平成30年度も、引き続きジャネの専門書の執筆に専念してきたが、それと共に、クレペリン、フロイト、ブロイラー、ユング、アドラーといった同時代の精神科医や心理療法家の理論についてもかなり深い研究を行ってきた。一方、20世紀後半から現代にいたる心理療法や臨床心理学の歴史と現況についても学ぶことで、これまでよりもいっそう広い視野からジャネの理論を考察し、現代の心理療法の先駆者としてその歴史的意義を位置づけられるようになた。さらに平成27年以来5本の論文を通して行ったジャネとベルクソンの比較研究により、ジャネのラディカル構成主義的認識論という新たな側面も取り出すことができた。これは現代の社会構成主義やナラティブ・アプローチと関係するだけでなく、エピステモロジーの領域におけるジャネの重要性を示すものと言えるだろう。専門書の進行過程については、まず平成30年11月までに約800枚に及ぶ第一草稿を書き上げ、続いて第二草稿の執筆を平成i 31年2月に終了、3月から清書に入り、現在2019年度内の刊行を目指している。今年度は学術雑誌にも複数の関連論文を発表していく予定で、そのための準備も出来ている。
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