研究課題/領域番号 |
15K02390
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
澤田 直之 (澤田直) 立教大学, 文学部, 教授 (90275660)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | サルトル / イタリア / 実存主義 / 共産党 |
研究実績の概要 |
初年度である今年度は、本研究に必要な膨大な資料を丹念に読み込む作業を中心に行った。中心となったのは、1961年12月に行われたサルトルのローマ講演、未完の紀行小説『アルブマルル女王』、ボーヴォワールの自伝四部作に見られるサルトルとボーヴォワールのイタリア滞在関連の記述である。これらの資料の読解を通して、本研究の目的である、サルトルとイタリア知識人との交流の実態と背景が少なからず明らかになった。特に、文学者や芸術家との具体的な交流について、これまで以上に正確な情報を得ることができた。 サルトルのイタリアとの関係の全体の流れを抑えるために、時系列に沿った形で著作や活動を追う作業を行い、その結果を論文「サルトルとイタリア(1)」(『立教大学フランス文学」45号)にまとめた。この論考によって、これまできわめて断片的な形でしか見えなかったサルトルとイタリアとの関わりの明確な見取り図ができた。 本年度の最大の成果は、1961年12月に行われたサルトルのローマ講演とその討議Qu’est-ce que la subjectivite ?, Les Prairies ordinaires(2013年にフランスで公刊)を『主体性とは何か?』として水野浩二氏と共同翻訳し、さらにその背景を詳細に追った解説を附して白水社より刊行したことである。当時のイタリア共産党の知識人との知的・人間的交流と、彼らとの思想的対立および相互影響について、包括的に分析するための基盤を提供できたと思う。 夏期にフランスおよびイタリアに出張し、『アルブマルル女王』の舞台となっている場所の確定を行うとともに、ローマのグラムシ研究所などを訪問。11月に、ローマ大学で行われたガブリエッラ・ファリーナ(ローマ第3大学)教授主催のシンポジウムに参加、イタリアやフランスの研究者との会合を持ち、今後の共同作業の見通しを立てた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回の研究においてきわめて重要であるローマ講演『主体性とは何か?』を予想以上のスピードで翻訳刊行したことで、当初予定していた初年度の作業をすべて遂行したのみならず、現地調査で新たな資料なども発見できた。なかでも、ローマ講演が行われる直接のきっかけとなったイタリア共産党系の知識人とサルトルの直接の交流を明らかにしたことに加えて、マルクス主義に関して、イタリア知識人の政治や歴史思想とサルトル思想との接点と相違点などに関しても今回の調査によってかなり明らかにできたことなどが、本研究がきわめて順調に進捗していると考える理由である。 また、現地調査などを通じて、フランスのみならずイタリア研究者のネットワークを拡大することができ、全体としてすこぶる順調に進展している。今後、新しく出会ったイタリアの研究者などとともに、ワークショップなどを行うことも視野に入れて、連絡を取っている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は予定どおり、2年次目の中心となる『アルブマルル女王』の読解、当時のイタリアの知識人や作家たちとフランスの知識人や作家たちとの交流の資料調査を行っていきたい。引き続き、文献読解が作業の中心となるが、『アルブマルル女王』は未完のため、内容が錯綜している。また草稿資料など文の異同も多いので注意深く作業を進めることにしたい。その一方で、本作品は、ナポリ、ヴェネチアといった都市に関する記述だけでなく、文明論として大変読み応えるのあるテクストである。そこに出てくる具体的な人物や事象が、サルトルの個人的な経験にどの程度根ざしているのかなどの検証を行うとともに、サルトルの思想形成における、イタリアの役割がどのようなものであったのかについての分析も行っていきたい。 本研究は全体としてきわめて順調に進捗しており、当初の計画から大きな軌道修正は考えていない。夏期には、フランスおよびナポリあるいはヴェネチアでの現地調査を行う予定であり、関係各所と連絡を取っているところである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
注文した資料が年度内に納品されなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
主な使途としては、当初の予定どおり、本研究に必要であるフランス及びイタリアの文学・文化・政治関係の資料などの購入、および、フランスおよびイタリアへの調査の渡航滞在費である。その他に、シンポジウムの講師謝金などを考えている。
|