研究課題/領域番号 |
15K02390
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
澤田 直之 (澤田直) 立教大学, 文学部, 教授 (90275660)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ジャン=ポール・サルトル / 実存主義 / イタリア / ティントレット / マルグリット・デュラス |
研究実績の概要 |
2016年度は、前年度に続き、本研究に必要な膨大な資料を丹念に読み込む作業を継続、50年代~60年代のティントレット論を中心に分析を行った。具体的なテクストは『アルブマルル女王 あるいは最後の旅行者』「ヴェネツィアの幽閉者」「一杯食わされた老人」「聖マルコとその分身」、「聖ゲオルギウスと龍」「ティントレットの完成品」である。これらを綜合的に解析した研究は少ないが、作者が生きた社会、作品が書かれ、読まれる社会を考慮することによって開かれる解釈の地平が問題であるこの一連のテクストから、サルトルにおける伝記的な問題構成と、社会歴史的な問題構成が密接につながっていることが明らかになってきた。 また、ヴェネツィアを中心に、サルトルが言及したティントレットの作品に関して現地調査を行った。サルトルが分析するように、ティントレットの作品は都市ヴェネツィアと一体化しており、現場をサルトルの作品分析と対照させながら確認する作業はきわめて有益だった。とりわけ『アルブマルル女王』に顕著な旅行者の視点について具体的な側面が明らかになったことは収穫であった。 前年度に引き続き、サルトルとイタリア知識人や作家たちとの交流の実態に関しても文献調査を行った。その際にサルトルより一世代後になるフランスの女性作家マルグリット・デュラスのケースを参照項とすることで、サルトルの特質を際立たせることを目指した。成果の一部は、国際シンポジウム「サルトルの今日性」において "Sartre et l’Italie : autour du biographique" 、日本フランス語フランス文学会2016年度秋季大会にて「ジャン=ポール・サルトル評伝というトポスの可能性 未完のティントレットを中心に」として口頭発表したほか、『立教大学フランス文学』45号に「マルグリット・デュラスと地中海 廃墟を透視すること」として公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、広範囲にわたる文献の精査、ヴェネチアを中心とするイタリア現地調査を行うことができ、それに基づいた分析も順調に進捗し、その一部を発表することもできた。自筆草稿の確認作業については、やや進捗状況が劣るが、これらの多くはすでに活字化されているから、全体の研究への大きな影響はない。 イタリアの知識人との交流およびイタリア文化界への実存主義のインパクトに関しては、狭い意味の実存主義に留まらず、マルグリット・デュラスのケースを参照することで、当初予定していた以上の幅が出てきたように思われる。無闇に対象を広げるのは危険であるが、エリオ・ヴィットリーニをはじめ、共通の知人・友人も少なからずいるから、文化史・文化交流の観点から見ると、さらに別のケースも追加してもよいように思われる。また、この間、現代イタリア文学の専門家である和田忠彦氏や、イタリア美術史・現代思想の第一人者である岡田温司氏などとの意見交換によって、これまで以上にイタリアとフランスの関係について双方向的に考えることができるようになったことなども大きな収穫と言える。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
上半期はこれまでどおり、できるだけ多くの文献を読み込み、これまで見逃されてきた事象や事例、あるいは過小評価されてきた問題構成などの発掘に努めるつもりである。 2017年度は最終年度であるので、下半期はこれまでの研究の成果をまとめるために、今年度行った学会発表などの活字化、未邦訳の作品の翻訳などを含め、最終報告書の作成に向けて、総括の作業を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外に注文していた書籍等が当該年度中に届かなかったため、予定していた図書資料費の一部が執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画はおおよそ申請書にすでに記載した通りである。具体的には、引き続き資料収集のための物品費、現地調査のための旅費のほか、資料整理のための人件費に宛てる予定である。また、報告書作成のための印刷費も計上している。
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