研究課題/領域番号 |
15K02391
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
立花 英裕 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80207050)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ネグリチュード / フランス語圏 / コロニアリズム / カリブ海 / 黒人 / フランス詩 / マルチニック / 植民地主義 |
研究実績の概要 |
2015年度においては、作品研究としてCIEFの大会でエメ・セゼールの文学言語について研究発表を行い、伝記的研究として、2016年3月にマルティニックを訪れ、幼・少年時代および、第2次世界大戦期を中心に現地調査を行った。また、比較研究もある程度進めた。以下、実施された研究の概要を箇条書きにする。 ①主な資料収集:マルティニック県立資料館において、新聞Justice『ジュスティス』の調査を行った。②主な研究交流:マルティニックで文学研究者マニュエル・ノルヴァ、ジュリエット・ブレーズ=エロアと研究会を開き、多くの情報提供を受けた。演劇人・詩人らと交流をもち、セゼールの文学言語に内包されるクレオール語的律動の重要性について教唆を得た。第2次世界大戦中の雑誌Tropiquesについて、ルネ・メニルの未亡人から貴重な証言を得た。③主な現地調査:演劇人ジョスラン・レジナの案内で、エメ・セゼールが少年時代を過ごしたプランテーションと学校を訪れた。文化人類学者ウィリアム・ロールの案内で、フォール・ド・フランス市の港湾労働者が住む地区ヴォルガを調査した。市長時代のエメ・セゼールの文化政策、社会教育政策について貴重な証言を得た。④パリでは、フランス国立図書館で『植民地主義論』の最初のヴァージョンが発表された雑誌Chemins du mondeを閲覧した。また、数人の文学者と会い、フランス語圏文学の現状について知見を得た。⑤早稲田大学中央図書館のオンラインデータを用いて、雑誌Presence africaineの研究を進めた。⑤比較研究としては、日本ケベック学会の大会で、ケベックにおけるナショナリズム形成や自律的文学観の形成について研究発表をした。⑥1913年-1945年を中心に研究ノートを作成したほか、資料のデータ・ベースを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎研究・調査は、どうしても広範囲にわたり複数の研究課題を同時に取り扱うため、研究の進捗に濃淡ができるし、その成果をすぐにまとめるのは難しい。個人的に作成したデータ・ベースを用いて整理することにも時間がかかっている。また、研究の進行による新たな発見が研究方向を微妙に変えることも起こっている。そうしたことから、研究・調査の重点をどこに置くのかについて若干の迷いが出た。主要な基礎研究・調査が年度末3月に行われたことも影響している。 しかし、基礎研究・調査によって収集できたデータは、期待以上のものがあり、独自の研究視点を構築する上で役に立つ発見が少なからずあった。また、多くの研究書のリサーチをした成果もあり、基礎研究について一定の成果が得られた。繰り返しになるが、各研究課題を進捗させることができた点は評価できるが。調査、予備研究の段階が終了した課題も少ない点は反省材料である。 具体的な例を幾つか挙げると、雑誌Tropiques時代の研究が、当時の新聞の閲覧によって大きく前進し、これまで知られていなかった緒事実を発見したが、それだけに、予想していた以上に困難で、予備調査に時間がかかるテーマであることが明らかになった。 戦後期の研究についても、雑誌Presence africaineの研究が進んだが、作品研究、人的交流、政治と文学の関係など、関連テーマは数多くあり、今後は研究調査の領域をより狭く限定する必要がある。 1950年代を中心とした比較研究については、「研究実績の概要」では触れることができなかったが、以前よりエドゥアール・グリッサン『ラマンタンの入江』研究をグループで行っている。この作品は、エメ・セゼール研究にとっても重要であるが、これを翻訳出版することが決まった。比較研究の成果の一つとなるが、翻訳に時間が取られたことも事実である。2016年度中に出版される予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、基礎研究の課題を絞った上で、その中で不十分な部分を補っていく。基礎研究の重点課題としては、第2次世界大戦期の活動(雑誌Tropiques中心)、戦後期における活動(雑誌としてはPresence africaine)が挙げられる。そのため、もう一度、マルティニックに赴き、県立資料館で作業を進めることにしたい。 これまでの研究で、エメ・セゼールの生涯全体を取り上げる必要性は必ずしもないことが明らかになった。今後は、1913年-1939年を俯瞰的に捉える中で、長編詩『帰郷ノート』に時間を割き、1940年代、1950年代について特に重点的に研究し、せいぜい1970年くらいまでを視野に入れるようにしたい。 以下、今後の方策をより具体的に挙げるならば、次のようになる。 ①2016年5月末にセネガルで開催される国際フランス語圏学会(CIEF)の世界大会において、雑誌Presence africaineについての研究発表を行う。②1913年-39年の時期について論文にまとめる。②マルティニック県立資料館において、新聞Justiceについて1947年以降の調査をする。③現地で研究会を開くなどして、マルティニックの社会・文化、セゼールの文学・政治思想に焦点を当てて研究を深めていく。④エメ・セゼールの戦後期の活動については、雑誌『プレザンス・アフリケーヌ』を一つの軸にすることによって、研究にメリハリをつけたい。この雑誌に寄稿しているアフリカ系を含めた著者についても一定程度、調べる必要がある。⑤日本の若手の研究者に声をかけて、2016年度から雑誌Tropiquesの研究会を早稲田大学で定期的に開くことにする。⑤2017年度に予定している国際シンポジウムのテーマをできるだけ早く明確にする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、すでに収集済の書籍・資料の整理・分析が中心になったため、新規の物品購入が少なかった。 人件費・謝金については、好意的に情報を提供してくれる人が多かったため、海外調査において謝金の発生が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、新規の物品購入が増える予定である。特に、古書について高額の支出が発生する可能性がある。人件費・謝金については、これまでの研究を発展される過程で、海外および国内での謝金の支出を予定している。
|