飲食という行為を広く文化としてとらえることである。飲食が展開される日本の家庭の食卓から外食装置にまでいたる広い意味での飲食空間が、その基層においてどうイメージされ価値づけられているか、つまりどう表象されているかを問うことである。この探索をより明確にするために、フランス飲食文化という比較項をもうける。これによって、探索はより具体的になり、実り多いものとなると同時に、フランスの飲食空間と日本の飲食空間の表象上の相違も明らかになるだろう。 探索の方法論は領域横断的で学際的である。探索すべき対象は、文学作品をふくむ飲食に関するテクストであり、同時に飲食の現場のフィールドワークも適宜行い、現場での言説を確認する。こうして通時的視点と共時的視点の双方から飲食という行為の意味を分析する。 基本的な視点は表象であり、それを軸に、おもにブルデュー社会学、アナールは歴史学、ベルク風土論地理学の手法を用い、適宜民俗学と文化人類学の成果も活用する。 もっとも重要な最終的な研究成果は、日本の飲食の社会的特徴が、人々でいっしょに食事を摂るさいに、各人がまず自然とのつながりを意識する点にある。人とのつながりはこの自然とのつながりの結果として生じると感じられれることだ。これに対して、フランスを中心とする欧米の共食においては、人間同士の関係が重視される。日本の飲食空間は自然性によって、欧米の飲食空間は社会性によって大きく特徴づけられる。 ただし、忘れてはならない点は、日本の自然志向は、より自然な食材の選択や料理技術の洗練をはじめきわめて高度な人間の技術性によって実現されていることだ。これはまさに文化を積み重ねて自然に至ろうとする日本の風土性の表現である。
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