研究課題/領域番号 |
15K02393
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
郷原 佳以 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90529687)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジャック・デリダ / 自伝 / 灰 / 《ミッション:インポッシブル》 |
研究実績の概要 |
デリダにおける「自伝の脱構築」のありようを明らかにするという本研究の目的に沿って、平成27年度は主として以下の研究を行った。 (1)デリダの初期重要テクスト「プラトンのパルマケイアー」におけるプロソポペイア(活喩法)を指摘するなど、デリダ論も含む形で文学と哲学の境界を問い直す比喩形象を追求しているという点で本研究のテーマと深く関わるブリュノ・クレマンの『垂直の声』の翻訳を刊行し(水声社)、論文「他なる声、他なる生、比喩形象(フィギュール)」を発表すると共に、著者来日に際し対話を行った。プロソポペイア等が浮上させるテクストにおける「声」の問題をめぐっては、論文「セイレーンたちと歌と「語りの声」」(『声と文学』平凡社)においても考察を行った。 (2)前年度までの研究成果を引き継ぐ形で、デリダにおける自伝的・詩的テクストの展開と晩年まで続いた「灰」モチーフとの関連を精査し、両者に大いなる関係があることを突き止めた。まず、自伝的テクストのうち「灰」が最初に明示的にテーマとなった『火ここになき灰』を取り上げ、そのなかにアメリカのTVドラマ《ミッション:インポッシブル》への暗示が現れることに着目し、その起因として、自伝的・虚構的テクスト「送る言葉」(『絵葉書』)および「プラトンのパルマケイアー」末尾において、《ミッション:インポッシブル》と類似要素をもつプラトン「第二書簡」への重要な参照が見られることを指摘した。その関連を読み解くことで、「灰」モチーフの登場がデリダにおける自伝的・詩的テクストの端緒を徴づけていることを示した。研究成果は東京大学部会談話会において口頭発表の後、論文「デリダにおける《ミッション:インポッシブル》――灰、自伝、エクリチュール」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デリダ晩年のセミネール『獣と主権者2』まで続いた「灰」モチーフに着目することで、初期の「プラトンのパルマケイアー」(『散種』)、中期の「送る言葉」(『絵葉書』)、『火ここになき灰』が自伝的・詩的テクストとして繋がる線を見出すことができた。かくして、自伝的テクストについてはある程度研究が進んだが、関連テクストを網羅的に検討して包括的な結論を出すには至っていない。また、本研究のもうひとつの軸である、テクストの自伝性や虚構性に関わるデリダの言説の検討も今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)引き続き「プラトンのパルマケイアー」の議論とテクスト性に注目し、ブランショ等のテクストと比較検討を行う。 (2)ニーチェ論『他者の耳』や隠喩論、言語行為論をめぐる議論等により、哲学者の言語や哲学と文学の言語の境界等についてのデリダの見解の特異性を抽出する。 (3)ド・マン論『メモワール』や後期の動物をめぐるテクスト等を通して、記憶や倫理に関わる問題と自伝性との関わりについて検討する。 (4)「送る言葉」(『絵葉書』)や「割礼告白」において「自伝の脱構築」の実践を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブリュノ・クレマンの招聘は日仏会館の助成金で行われたため。また、デリダ以外の自伝論および自伝文学の収集および考察が不十分だったため。
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次年度使用額の使用計画 |
プラトンの書簡や芸術論、アウグスティヌスの『告白』やルソーの『告白』等をめぐる文献を収集し、調査する。
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