研究課題である「リベルタン文学はフランス革命に影響を与えたか?」という疑問に答えるため、『リベルタン文学とフランス革命』関西学院大学出版会、2019を出版した。 本書では、「リベルタン文学」のなかでも中核的な役割を果たした作品に、焦点を当てて分析している。その分析対象は、「リベルタン文学」の先駆者であるクレビヨン・フィスの代表作である『ソファ』、ディドロの『不謹慎な宝石たち』、十八世紀のフランス文学でもっとも猥褻と言われている『ドン・ B***の物語』、性と哲学が一体となった『女哲学者テレーズ』、マリー=アントワネットの性を攻撃する「中傷パンフレット」、フランス革命を映し出しているサドの『閨房哲学』などである。また、これまであまり研究がなかった「リベルタン版画」についても一章を割いている。とりわけ版画については、日本の春画と比較しながら検討をした。春信や歌麿が活躍したのも同じ十八世紀であり、日仏の版画の特徴がよく読み取れるからである。 ではその結論は? 残念ながらわれわれの分析から、リベルタン文学のフランス革命への直接的な影響を指摘することは難しい。しかし、間接的な影響は間違いなくあったと言えるだろう。『女哲学者テレーズ』の分析から「仮想の読者」の関心は「道徳、宗教、哲学」にある。「十八世紀の一読者」の「道徳、宗教、哲学」への関心が、フランス革命へと直結するわけではないが、ばらばらに燻る火があるときぼっと燃え出し、その火が瞬く間に飛び火して、大火になる、そんな当初の個別の燻る火にこそ「リベルタン文学」の役割があるのではないか。教権の堕落を描き、王権の聖性を剥ぎ取ることに、リベルタン文学は貢献したはずである。こうした役割を考えるとき、リベルタン文学がフランス革命に与えた影響は、間接的であるにしても、大きなものがあったというのがわれわれの結論である。
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