研究課題/領域番号 |
15K02399
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英雄叙事詩 / 後朝の歌 / 文学と歴史 |
研究実績の概要 |
本研究の2年目である平成28年度は論文1篇を発表した。英雄叙事詩諸作品の中で特異な意味を持つ「ミンネ」(恋愛)に関する基礎的な考察である。英雄叙事詩では通常戦争や戦闘が主なテーマであるが、他の国々や文化圏の関連ジャンル(たとえば日本の軍記物語)と同様、主人公をはじめとする登場人物の恋愛ないし婚姻もまたいくつかの作品でテーマ化されたり(『ラヴェンナの戦い』『ヴィルギナール』)言及ないし暗示(『古ズィゲノート』)されたりしている。(パロディ化されたものは除く。) しかし英雄叙事詩に現われる関連描写のみを対象とする分析は有効ではない。同時代の他ジャンルはもとより、ヨーロッパ文学の長い伝統を考慮するのは必須の作業である。そこで今年度は、個別分析に入る前の段階の基礎的作業として、対比的考察を試みた。具体的には日本における研究成果の援用が期待できる分野としてDawn Songを選んだ(日本では「後朝の歌」)。このジャンルは文学のグローバルヒストリーできわめて重要な位置を占める。ミンネをテーマとするさまざまなジャンルの中でも、感情がもっとも先鋭的に表出されるものの一つであり、なおかつ日本文学研究でも厚い蓄積があるため、比較考察が可能と考えたからである。(軍記物語の描写を選ばなったのは、それもさまざまな文学的伝統による部分があると推定したことによる。) ヨーロッパでも日本(および中国大陸など)でも、男女が共に過ごしたあとの別れを惜しむ感情を表出するのは共通である。しかしヨーロッパの場合具体的事実との関連するという発想が研究者にないのに対し、日本では歌の作者の行動が日記等の史料で確認できる場合が少なくなく、「文学と歴史」の関係を相当程度跡づけることが可能である。これらの点について論文を発表する一方、海外研究協力者に報告し、今後の研究についての建設的な助言を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究自体はほぼ申請時の計画に記した通りに進めることができた。文学と歴史の関係については、上記の概要に記した実績の他、文芸作品を書庫に収集した家門の関連資料、および史料が豊富に残されている数少ない詩人の経歴と文芸活動についても考察を進めた。また英雄叙事詩の記述の一部が典拠として用いられた「世界年代記」に関する研究も前年度から継続して遂行した。しかし論文の発表は1篇にとどまったので、やや遅れていると認めざるを得ない。なお公表には至らなかったものの現在執筆中の論文が複数あるので、これらを順次公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は文献学研究であるため、全期間を通じて対象とする諸作品や記録文書の語彙や表現に密着した考察を進める。 平成29年度も27・28年度に続けて作品解釈の重要な鍵となる語彙を抽出し、それらの持つ意味に関する考察を進める。さらにミンネを含めた「文学と歴史」の関係についても諸資料の批判的検討を行い、その結果を公表する予定である。 平成30年度は、27・28・29年度の研究および従来の助成研究の成果を基にして、英雄叙事詩を他の文化圏の作品と比較ないし対比して検討する。それらの共通点や類似点と相違点に着目して理論的な記述を目指す方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に参加発表を予定していたシンポジウム(海外)が主催者の都合で中止となったため、旅費に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に新たなシンポジウムが開催される予定なので、これに参加して発表する旅費に充当する。
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