研究課題/領域番号 |
15K02400
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
副島 美由紀 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (20226707)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ドイツ現代文学 / オーストリア現代文学 / ポストコロニアル文学 / 植民地研究 / 旧ドイツ領植民地 |
研究実績の概要 |
2018年度の計画の中心には、中国における旧ドイツ領である膠州湾租借地に関する文学研究があったが、その成果発表として、韓国における国際シンポジウムの「ソラク・シンポジウム」による招待を受け、9月29日韓国の慶州市において「中国と太平洋地域の旧ドイツ領に関するポストコロニアル文学について」という発表を行った。より一般的なポストコロニアルおよびインターカルチュラル文学に関する研究としては、日本独文学会の学会誌「ドイツ文学」158号(特集「移動する文学」)に、「俳諧紀行と自殺願望の国で-『松島』:マリオン・ポッシュマンによる新たな日本旅行記 -」という論文を寄稿した。ポッシュマンの『松島』は、ドイツ語圏の作家による新たな日本紀行としてドイツで高い評価を得た小説である。さらに、11月に開催された「第27回オーストリア現代文学ゼミナール」において、ラウル・シュロットの小説『フィニス・テラエ』について「判じ絵としての世界像」という発表を行った。この小説は、オーストリアにおけるポストモダン探検文学の代表的作品としてよく議論される作品である。現代文学としてのポストコロニアル文学は、徐々にインターカルチュラル文学の一ジャンルとして把握されるようになっている。中でも移民文学としての側面を持つ作品は、ポスト・ポストコロニアル、あるいは新ポストコロニアル文学という呼称の下に考察される可能性を持ち、その特徴として、ポストモダンにおけるような遊戯性に代わる倫理性を挙げることが出来る。従って目下の理論的考察の作業としては、現代文学における「倫理的転回」という現象を把握することが活動の中心となっている。外国における活動として当初は「第18回ベルリン国際文学祭」への参加を計画していたが、上記のような論文・発表の依頼のため、これを2019年度に延期し、改めて第19回の同文学祭に参加することを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも記述した通り、本年度は論文1本と研究発表2回の依頼を受けてその準備に追われ、計画していた「第18回ベルリン国際文学祭」への参加を断念せざるを得なかった。とは言え、研究成果発表の貴重な機会としてそれらの依頼にはなるべく応じようと努めた。しかも、ベルリン国際文学祭では2015年以来、ドイツへの移民の流入に関する議論が陰に陽に重要な位置を占めており、事の全体的な推移を見る目的においては、むしろ少し時間を空けて催し自体を観察すべきようにも思われたので、文学祭への参加の次年度への延期はむしろ研究にとって好都合と思われる。また研究成果発表の余力を使い、個別作家研究や理論研究自体は順次行っていることから、総合的に見れば全体的な研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は本来の研究計画を1年延長した年限であるが、「第19回ベルリン国際文学祭」への参加に加え、これまでの研究においてやり残した項目に関する研究を行っていくつもりである。 ①《国内における資料収集および研究活動》旧ドイツ領である膠州湾租借地に関する文学研究として、8月に開催される「アジア・ゲルマニスト会議2019札幌大会」において、「新・旧中国小説に見られる他者像の推移」(仮題)について発表を行う予定である。また、個別作家研究としては「第28回オーストリア現代文学ゼミナール」においてトーマス・シュタングルの作品とそのインターカルチュラル文学としての倫理的エートスについて発表を行う予定である。それらの発表内容は順次研究論文としても発展させ、結果的に総合的な研究テーマを概観するような論文として結実すれば理想的と考えている。 ②《外国における資料収集その他》 「第19回ベルリン国際文学祭」に参加すると同時に、ヨーロッパおよびドイツにおける現代文学の動向に関する情報収集を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の予定外の研究発表および論文執筆依頼のため、国内における研究活動に集中せざるを得ず、計画していた海外出張をすることが出来なかった。従って出張費が未使用額となった。それは2019年度、「第19回ベルリン国際文学祭」に参加するため、海外出張費として執行予定である。
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