研究課題/領域番号 |
15K02406
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
金澤 美知子 日本大学, 芸術学部, 研究員 (60143343)
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研究分担者 |
塩川 徹也 東京大学, 名誉教授, 名誉教授 (00109050)
ウィリアムズ ローレンス 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (50750486)
宮田 眞治 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70229863)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 冒険小説 / 書簡体小説 / ルソー / スターン / 旅 / センチメンタリズム / カラムジン / ドストエフスキー |
研究実績の概要 |
本研究は、近代ロシアの市民社会形成期(18世紀~19世紀初頭)における新たな精神文化の確立のプロセスを、書簡や旅行記を含む広義の文学作品に刻まれた「時間」の表象を考察することによって明らかにしようとするものである。ロシア社会は18世紀初頭にヨーロッパのバロック文化を移入することによって近代化への一歩を踏み出し、18世紀末から19世紀初頭にかけてはロマン主義の影響下に新たな精神文化を育んだ。「時間」の表現もまた、バロックから新古典主義を経てロマン主義に至る様式の変遷の中で変化を遂げたことが予想される。以上の見通しのもとに、本年度は次のような作業を行った。 (1)ロシア・センチメンタリズムの時代に読書社会を席巻した「親不孝娘」の物語において、時間がどのように理解され、演出されているのかを考察した。この場合の「親不孝娘」は聖書と深い関わりを持つ「放蕩息子」譚の女性版ではなく、個人と社会、特に個人と家庭の対立の中で描き出される物語を示している。 (2)18世紀末から19世紀前半へのロシア小説の変遷における「時間」理解の継承について考察した。特に感傷小説と繋がりの大きいドストエフスキーの初期作品における時間の演出をとりあげた。 (3)「時間」理解への新たな手がかりとして、「旅」を扱った作品に注目し、考察に着手した。次年度も作業を継続する予定である。 以上の点について、まだ作業の過程ではあるが、研究報告会、学会、講演会等で成果の一部を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、ロシア・センチメンタリズム文学を代表すると考えられる「親不孝娘」の物語を考察した成果として、研究誌SLAVISTIKA31号に論文「「親不孝娘の物語」は近代ロシア社会形成過程の証人となれるか-プーシキンの『駅長』のもう一つの解釈-」を発表し、18世紀後半から19世紀初頭にかけての個人と社会の関係に対する理解の変化を明らかにした。 次に、18世紀末から19世紀前半へのロシア小説の変遷における「時間」理解の継承について考察し、その代表的な例としてドストエフスキーの初期作品を取り上げて分析し、第16回国際ドストエフスキー学会(於スペイン、グラナダ)で報告した。 さらに、新たな注目題材としての「旅」を扱った作品に関しては、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター主催北海道スラブ研究会で「18世紀、ロシアに旅した人びと」と題して報告した。報告の一部に関しては、平成29年度に文章化する予定である。 以上、予定した調査と考察、成果発表において、作業は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の作業を継続し、発展させて、全体のまとめを行う。 18世紀末にロシアの読書社会に流行した感傷小説を手がかりとして、近代のロシア社会における「時間」の理解と表現について一定の見解を得る。また、18世紀末から19世紀初頭にかけての「時間」の理解と表現の変化についても注目する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の末になって、「時間」の表現についての理解を深めるために、「旅」を扱った著作も視野に入れて、研究を発展させたいと考えるに至った。「旅」を扱ったものとしては伝記的著作および創作を念頭に置いているが、平成28年度内にテクストおよび研究文献の購入を完了することは難しく、一部の文献の入手は次年度になった。
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次年度使用額の使用計画 |
18世紀の西欧人のヨーロッパへの旅を扱った伝記、創作と、ロシアにおける「旅」のテーマに関わる作品、および関連する参考文献を入手し、調査研究を進める。前年度に予定していた文献の購入を済ませ、新規に必要となったものを補充する予定である。
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