研究課題/領域番号 |
15K02409
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
糟谷 啓介 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (10192535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 言語問題 / イタリア語 / 文体 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、ダンテから16世紀のクルスカ・アカデミーの設立までにおけるイタリアの「言語問題」の流れを扱った。この時期の言語問題に関する先行研究は膨大であるが、本研究の独自性として、ダンテの『俗語論』の解釈が言語問題における立場決定とどのように関係するかという視点を設定し、俗語論解釈と言語問題の展開を結びつけて論じた点が挙げられる。ダンテの『俗語論』を「発見」したトリッシーノが、『俗語論』をフィレンツェ中心主義を批判する根拠として取り上げたことから、イタリアの言語規範についての論争は激しいものとなったこと、その流れに対抗してマキャヴェッリをはじめとするフィレンツェ主義者たちは『俗語論』の価値を否定しながらフィレンツェの慣用の優越性を主張したことに注目し、ダンテの『俗語論』がフィレンツェの言語的中心性を認めるか否かの試金石の役割を果たしたことを明らかにした。そして、クルスカ・アカデミーにおいては、「言語」のレベルにおけるフィレンツェ主義と「文体」における復古的純粋主義が調停され、その後のイタリアの言語規範についての考え方の基礎が作られたことを論じた。この研究の成果は、所属する研究科の紀要に発表した。 また、平成27年度には、ほぼ30年間にわたって書き継いできた論文のうち主要なものを選んで集めた論文集を、韓国語に翻訳して韓国で出版した。その内容は、近代ヨーロッパにおける言語社会学、言語思想史、言語政策に関するものであり、イタリアの言語問題について論じた論文も含まれており、本研究を補完する研究成果とみなすことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体の目的は、ダンテから現代までのイタリアの「言語問題」を通して、言語と文体の階層制の問題を解明することであり、そのうち平成27年度の目的は、16世紀以前の「言語問題」の展開を独自の視点から考察することであった。上記研究成果に見られるように、ダンテ、ベンボ、トリッシーノ、マキャヴェッリ、ヴァルキなどの原典にあたり、言語問題の展開を具体的に追いかけたことで、16世紀のイタリアにおいて言語と文体の階層制がどのようにとらえられたかを明らかにすることができた。この点からみて、平成27年度の研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向は、16世紀以降のイタリアの「言語問題」に関する研究を進めることである。とくに18世紀後半から19世紀のリソルジメントにいたる時期は、イタリアの国民国家形成の時期にあたり、そうした文脈から言語規範の問題が論じられた。その流れの帰結が、小説家マンゾーニによる「国民語」の主張であった。その点から見ると、この時期の言語問題は、文学語ないし文章語の規範の問題に終始していた16世紀の言語問題とは性質を異にする。したがって、これまでの研究とは異なる問題設定が求められる。この点に注意を払いつつ、「言語問題」がどのように新たな展開を示すかに注目して、研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
イタリアから取り寄せる予定であった研究に必要な書籍が年度末まで待っても到着しなかったため、当該年度の研究費に残額が生じた。今後は、書籍の発注時期に細心の注意を払うよう努める。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、研究に必要な書籍の購入に充てる予定である。
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