研究課題/領域番号 |
15K02412
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 准教授 (50534492)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | パトリオティズム / コスモポリタニズム / 親密圏 / 市民社会 / 啓蒙時代 / レッシング / ヴィーラント / シューバルト |
研究実績の概要 |
本年度は以下の3点を中心に研究を進めた。 1)啓蒙時代の劇作品を分析する準備として、18世紀の演劇文化を多面的に調査すること。 2)啓蒙時代において、家族を中心とする私的な親密圏の表象がどのような意味と機能を持ったのかを明らかにすること。 3)本研究の最終的な目的は、市民知識層の政治的なアイデンティティ形成の過程において家族を中心とする市民的な親密圏をめぐる諸観念がどのように機能したのかを明らかにすることである。その一環として、コスモポリタニズムとパトリオティズムについて研究し、当時の政治的なアイデンティティ形成の実態を探ること。 1)については、ゴットシェートからゲーテまでの演劇改革の流れをたどり、その演劇論、演技論にみる特徴を明らかにした。その成果を他の研究における成果とあわせてまとめ、オランダにおける国際18世紀学会で発表した。2)についてはレッシングの劇作品を中心に研究を進めた。彼の作品が、家族を中心とした親密圏の描写を通して主体性の倫理を核とする市民的な理想主義を表現しつつ、その問題性を批判的に浮き彫りにしていることを明らかにし、論文に発表した。3)については、ヴィーラントやシューバルト、トマス・アプトの言説を中心に分析し、当時のコスモポリタニズムとパトリオティズムの共通点や違いを明らかにした。これについてもすでに論文を作成しており、現在学術雑誌『希土』に投稿中である。(現時点では掲載未定)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでの蓄積を発展させながら、本研究の基盤となる事象や概念について研究を進めた。レッシング論を通して、市民知識層による社会思想を刻印する諸理念と、劇作品における親密圏の描写との間の確かな連動関係を抽出したことは大きな成果であった。また、当時の市民知識層の政治意識についても、コスモポリタニズムとパトリオティズムの比較研究を通して詳しく明らかにすることができた。他の研究や職務との兼ね合いでドイツ出張の時間をとることができず、当初予定していた文献収集を行うことができなかったが、これは今後の研究の中で十分取り戻すことが可能である。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をふまえて、今後は以下の点に重点を置いて研究を進める。 ・コスモポリタニズムとパトリオティズムの両言説において、家族を中心とする私的な親密圏がどのように位置づけられているのかを分析する。とりわけ、フランス革命後にパトリオティズムの言説が強化されたとき、家族道徳の奨励がそこにどのように組み込まれていたのかを明らかにする。 ・18世紀後期における愛国的な劇作品や家庭劇を収集し、そこにみる政治意識が親密圏をめぐる諸観念にどのように結びつけられているのかを明らかにする。 以上の研究を進めるとともに、これまでの研究成果を最新の研究動向を取り入れてまとめなおし、新たな研究成果とあわせて発表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたドイツへの文献収集のための出張に行くことができず、旅費を使わなかったために当該予定よりも少ない使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、文献購入費および国内学会やドイツ出張の旅費にあてる。機動力を高めるために、新たにノートパソコンも購入する予定である。また、研究発表のために生じる謝金等も今後増加する見込みである。
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