研究課題/領域番号 |
15K02414
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三谷 研爾 大阪大学, 文学研究科, 教授 (80200046)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多言語社会 / 境界都市 / 境界文学 / プラハ |
研究実績の概要 |
本年度は、当研究課題の最初の年次にあたり、今後のスムーズな研究遂行のための基礎的作業をおこなった。 当研究課題構想の出発点であるマグリスのプラハ論については、雑誌論文初出(1980)と単行本収録(1989)のあいだのテクストの差異に注目しながら、その内容の再確認をおこなった。同時に、プラハと近似する境界都市だったトリエステを取り上げたマグリスの議論と照合することにより、1980年という時点でマグリスがプラハ論を構想するにいたった背景について検討をすすめた。さらに、ゴルトシュテュカー主宰の「世界の友」会議のプロトコルの検討をおこない、マグリスの研究に先行する1960年代のチェコでの議論の水準を考察した。1970年代における両者の関連ないし影響関係については、さらに検討を加える必要があることも明らかとなった。 研究協力者の島田淳子は、チェコ系ドイツ語作家の第二次世界大戦後の活動の検討を担当し、カフカ文学の影響下で作家としての立場を確立したモニーコヴァーの作品の具体的検証をすすめた。 資料収集は、チェコ国内を中心に現地調査をおこない、また関連する作家たちの生活史的背景を探るために、プラハ以外の地方都市における地域文化の状況を実見した。とりわけモラヴィア地方について、各地の地域博物館において、ドイツ系・ユダヤ系コミュニティの歴史、およびその消滅の経過をめぐる情報を収集した(ブルノ、オロモウツなど)。ボヘミアとスロヴァキアにはさまれ、ウィーンにも近接するモラヴィア地方が、プラハとは異なった人的・文化的ネットワークを構成しやすい条件にあることを確認した。 あわせてプラハ大学において、研究情報の交換をおこない、次年度以降の研究をすすめるのあたっての基盤整備をすすめ、また来日中のチェコ人作家ミハル・アイヴァス氏と〈プラハのドイツ語文学〉に関して意見交換をおこなう機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグリスのプラハ論についての分析は、おおむね順調に進行している。〈世界の友〉会議プロトコルの検討は、かならずしも当初予想したような結果にむすびついていない反面、研究協力者である島田淳子によるチェコ系ドイツ語作家モニーコヴァーの作品の分析は、かなりの進展をみた。また、研究初年次の海外調査は、文献収集よりも現地実見に重きを置いたが、全体としてスムーズにすすんだと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、マグリスのプラハ論の考察成果を論文として発表する一方、本研究課題の問題意識をより大きく展開して、日本独文学会で〈プラハのドイツ語文学〉関連のシンポジウムを組み、後半2カ年の活動のスプリングボードとする。海外調査と個別テクストの検討作業は、当初計画にしたがってすすめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が勤務先において副研究科長職に就いていたため十分な時間が取れず、海外での資料調査期間を圧縮し、また国内での調査もオンライン図書カタログに依存した調査に止めざるをえなかった。同じ理由で、研究会の開催なども見合わさざるをえなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、海外での資料調査に十分な時間を取り、また国内でのシンポジウム開催にあわせた研究会を数回予定している。
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