研究課題/領域番号 |
15K02414
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三谷 研爾 大阪大学, 文学研究科, 教授 (80200046)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プラハ / ドイツ語文学 / 多言語・多文化地域 / ユダヤ系知識人 |
研究実績の概要 |
本年度は、プラハ出身のユダヤ系知識人で、第二次世界大戦後はアメリカでドイツ文学・比較文学研究者として活躍したペーター・デーメツを取り上げ、〈プラハのドイツ語文学〉が継受されたひとつの事例として集中的に分析した。デーメツの場合、父親がドイツ語をはなすラディン系チェコ人、母親がユダヤ系系チェコ人という多言語的な家庭環境で成長しており、そもそも家族の歴史じたいが〈プラハのドイツ語文学〉の土壌となる社会的・文化的背景をそのまま体現している端的な事例である。そうした家庭環境のなかで、デーメツは当然のようにバイリンガルのチェコ人として自己を形成した。彼の言語的アイデンティティは本来的に複数的であり、ドイツ文学研究を生涯の仕事としたことは、そのことへの強い自覚から帰結したものと考えられる。アメリカで近現代ドイツ文学の専門家として活躍ししたデーメツは、東ヨーロッパの体制転換に前後する時期以降、プラハ・ドイツ社会の歴史とその文学に集中的にあらためて取り組み、多数の著作を発表している。マグリスの指摘する「プラハ神話」の解体を企図したそれらの仕事は、ユダヤ系知識人によって継受された〈プラハのドイツ語文学〉が、文学創作だけでなく文学研究・文化研究としても展開したこと裏書きしていると結論づけることができた。 現在のプラハにおける文学の創作・研究、および社会的発信については、〈プラハのドイツ語文学〉の遺産を伝えるため2004年に開設されたプラハ文学館が活発に活動している。その現況は、研究協力者島田淳子が報告論文を発表した。 これらの問題の考察には、中欧の複数文化的な社会環境に生きたユダヤ人の足跡を具体的に見ていくことも欠かせないと判断し、引き続きベルリンで資料収集を進めると同時に、ポーランドとりわけクラクフとウッジに存在していたユダヤ社会の実態について、現地の博物館で調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
〈プラハのドイツ語文学〉の第二次世界大戦後の継受を考える場合、自身もまたプラハさらには周辺地域の多言語・多文化的環境を背負って成長し、作家としてではなく研究者として活動した知識人の業績を評価することが欠かせない。現在、国内外の〈プラハのドイツ語文学〉研究のなかにこのような観点はなく、その意味でデーメツの事例を検証することにより、研究の新たな方向性を打ち出せた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き〈プラハのドイツ語文学〉の継受について、具体的事例の検証をすすめてその成果を発信する一方、本研究課題を通じて作り上げてきたスラブ研究者との連携ネットワークを活用して、プラハを含むボヘミア一円の複数的な社会的文化的環境についての研究情報をいちだんと広く共有するための研究集会「ボヘミア」フォーラムの開催を計画している。また、年度前半は職務でハイデルベルク大学に長期滞在するので、この機会を活用して、〈プラハのドイツ語文学〉の作家たちを含むユダヤ系知識人の移動・亡命の実際についても調査をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年8月に配偶者が死去し、それに前後して6か月以上研究遂行を停止した結果、同年度以降の予算執行に遅れを生じている。本年度は、年度前半に職務でのハイデルベルク大学への派遣中に、ドイツおよび周辺諸国での資料調査ならびに実地調査をおこなうほか、引き続き文献収集を図り、予算を執行する。
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