研究課題/領域番号 |
15K02415
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平田 惠津子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90294173)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ブラジル文学 / 文化的アイデンティティー / 移民 / 日系ブラジル人 / 記憶と創作 |
研究実績の概要 |
本研究「日系ブラジル人の記憶と創造に関する研究」の目的は、文学を主な舞台のひとつとして構築されてきたブラジルのナショナル・アイデンティティ-に照らしながら、ポルトガル語を母語とする戦後生まれの若い日系人が「自分たち」、つまり、ブラジルへ移住した日本人とその子孫の日常生活についてポルトガル語で描いた文学作品を検証することである。ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリが共著『カフカ―マイナー文学のために』で提示したマイナー文学の概念などを援用しつつ、ブラジル文学にほとんど不在のテーマだと言える日本移民の歴史を、民族的マイノリティーである日系人自身がどのように言語化したか検討し、その意義について考察する。初年度にあたる平成27年度は、一次資料である文学作品や関連資料をブラジルで調査・収集し、関係者へ取材調査を行うことを主な活動内容として計画していたが、諸事情によりブラジル渡航を次年度に延期したことから、すでに所有している作品の精読や、既存の文献の整理など、研究の基盤づくりを中心に行った。個別の作品分析に関しては、まだまとめる作業の途上にあり、現時点で論文などの実績はないが、次年度にその成果を発表する予定である。今後、日系ブラジル人によって書かれた作品の共通性を確認したり、相違性に着目して分類したりすることによって、それらをブラジル文学の一部をなす作品群としてカテゴライズしたいと考えているが(現時点では、あくまでその可能性の模索)、そのためにはさらなる作品の収集が不可欠であり、早急にブラジルでの研究調査活動を実施することが肝要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の初年度にあたる平成27年度は、研究推進のための基礎固めの期間と位置づけ、その作業の要として、一次資料である文学作品の収集を行う予定だったが、その活動の舞台となるブラジル(サンパウロ)への渡航を次年度に延期せざるを得ない状況となってしまった。これは共著者として関わっていた語学教科書の執筆と校正作業に思いのほか時間を取られ、ブラジルで研究調査活動に従事するための十分な時間の確保が困難となったことを主な理由とする。とはいえ、現時点で所有している文学作品の検討を進め、それと並行して本研究の理論的枠組みの構築に着手したため、総合的に「やや遅れている」と評価した。なお、語学教科書は当該年度末に刊行されたので、上記の状況はすでに解消されている。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に計画していたものの実施できなかったブラジルでの研究調査活動を今年度9月に予定している。日系人を題材にして、日系人によって書かれた小説は、その多くが限られた地域でしか流通しないマイナーな作品であるため、日系人人口が集中するサンパウロ市を活動の拠点として作品収集や情報の入手に努める。また、可能な限り作家へのインタビューを試みる。現地での活動を成功させるために、今年度前半はインターネットなどを使った情報収集や、関連資料の読み込みに努めたい。10月以降は現地で収集した資料の精査と、初年度に引き続き、研究の理論的枠組み構築のための文学批評理論の検討を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していたブラジルでの研究調査活動を次年度に延期せざるを得なくなったため、旅費や現地での活動に伴う諸費用(文献複写費など)の支出がなかったことが次年度使用額発生の理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に延期されたブラジルでの研究調査活動を9月に行なうことになっており、その旅費と現地での研究調査活動のために「次年度使用額」を充てる予定である。
|