研究の最終年度にあたる本年度は、以下の方向性から「日系ブラジル文学」の可能性について検討し、研究の総括に取り組んだ。 ① 日系ブラジル人によってポルトガル語で創作された文学作品の分類を試み、それぞれの特徴について考察した。② 「日系ブラジル人初の本格的な小説」と評された日系3世のラウラ・ホンダ・ハセガワの小説『Sonhos Bloqueados』(1991年発表)を取り上げ、語り手のキミコをはじめとするさまざまな女性登場人物に焦点をあて、ブラジルでエスニック・マイノリティーとして、また、女性として生きる彼女たちの日常がどのように描かれているか、検討した。その際、前年度ブラジルにおいて実施した作家へのインタビュー結果を参照した。③ 2011 年、ブラジル出版界において最も権威ある賞として知られるジャブチ賞小説部門で受賞した日系3世オスカル・ナカザトの『Nihonjin』について関連資料を収集、整理した。 上記①と②の成果を、平成 30 年 3 月 に開催された日本ポルトガルブラジル学会関西部会において「日系ブラジル文学:ラウラ・ホンダ・ハセガワの『Sonhos Bloqueados』を読む」というタイトルで発表した。ブラジル社会への同化が進むにつれ、日系社会への帰属意識を持つ日系人たちは減ってきているが、ナカザトの『Nihonjin』がジャブチ賞を受賞したことをきっかけに、日本移民の記憶が日系社会の垣根を越えて、ブラジル文学作品の主題として「記録」されたのみならず、それまであまり注目されてこなかったほかの日系人作家の作品にも光が当てられつつあることを確認した。
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