研究実績の概要 |
今年度は日本独文学会の機関誌に査読付きの欧文論文を投稿し、「Das Organische und das Unorganische bei Doktor Faustus ― Das III. Kapitel als Paradigma des gesamten Romans ― 」,In: Neue Beitraege zur Germanistik (日本独文学会), Band 15, Heft 1, 153, 112-129 (2016年12月)として掲載された。 上記論文はトーマス・マンの後期長編小説を対象としたものであるが、ドリーシュの言う「有機体の哲学」という観点に示唆を得て、マン文学全体を貫く有機体と非有機体の消息をトレースしたもので、ドイツ人の査読者(ドイツ本国におけるマン研究の権威)からも一定の評価を得ることができた。 申請者は、この雑誌のこの号(トーマス・マン特集号)には編集者としても参画し、他の投稿者の欧文論文も3本、複数回にわたって査読したので、かなりの時間と労力を費やすることになり、ドリーシュそのものについては、その超心理学的な著作を分析し、資料もほぼ閲したが、論文にまとめるところまではいっていない。 なお昨年度末締切で、今秋に出版予定のドイツ哲学に関する概説書(ミネルヴァ書房刊)に、出版社からの依頼で、申請者は「グスタフ・テオドール・フェヒナー」の項目を執筆した。フェヒナーは、ドリーシュに目を向ける契機を申請者に与えた自然科学者・自然哲学者である。概説書とはいえ、マイナーなフェヒナーの場合は事典の一項目という扱いなので、記述の分量は少ない。同概説書は、他の執筆者の筆が遅れなければ、29年度中に活字になるはずである。
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