2018年度は、4月に英独バイリンガル詩人アン・コッテンを招待し、本務校で講演会「異文化とどう付き合うか―ポリグロット詩人としての生き方」を開催し意見交換を行った。5月にはミレーナ・ミチコ・フラシャールを招待し、朗読・討論会を行い、日本を舞台とする小説を創作することの文化的社会的意味について質疑応答した。いずれもドイツ語圏文学におけるインターカルチュラリティをめぐる知見を深めることができた。9月にはテレティア・モーラ、ザビーネ・ショル、ツヴェタ・ゾフロニーヴァに再会し、インタヴューを行った。いずれも内的自我と外的自我の相克や、移動するアイデンティティの提示、インターカルチュラリティの普遍性と深化、越境者の視点から見た世界像の変容など、興味深い知見を得ることができた。11月のオーストリア現代文学ゼミナールでは、再度アン・コッテンの最新作について対談形式で意見交換した。また日本独文学会の特集号「移動する文学」の編集にも関わったが、これは現代ドイツ語圏文学におけるインターカルチュラリティの問題と重なる主題も扱われた。 作家によって差異はあるが、「国民文学」への懐疑と世界文学への展開を視座に入れた「複数・多文化性」と「移動するアイデンティティ」とも呼びうる特徴が共通に確認できるうえ、言語的革新への問題意識も共有されている。また「母語」と「獲得言語」の葛藤から生まれるハイブリディティと平衡性、あるいはまた複眼的多層性が作品にも現れている。それは「主導文化」からの「逸脱」ないしは「反抗」とも考えられるだろう。
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