この3年ほどの間の本研究の総括として、これまで発表してきた20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルドに関わる音楽論、音楽批評の分析を整理しながら、それらを統一的な視点からまとめ、一冊の学術書にまとめる作業を行った。 具体的には、1910年代前半の初期ロシア・アヴァンギャルドの音楽論をとりまく思想的な状況を整理したうえで、まず、2016年度から17年度に発表したニコライ・クリビンの芸術論、音楽論を整理し直した。その後、2017年度に発表したミハイル・マチューシンの音楽論と音楽作品を分析した論考を、クリビンの芸術論を引き継ぐものとして整理し直し、クリビンとマチューシンの音楽論を「宇宙論的音楽論=有機的音楽論」と定義した。 2015年度に、ルリエーとストラヴィンスキーの音楽論、音楽作品についての論考を発表したが、彼らの音楽論や音楽作品はまさにこの「宇宙論的音楽論=有機的音楽論」の中に位置づけられるものであるため、その問題意識に基づいて、その拙論を整理し直した。 これらの一連の作業の成果として、2019年1月に『ロシア・アヴァンギャルドの宇宙論的音楽論――言語・美術・音楽をつらぬく四次元思想』(水声社)を刊行し、ロシア・アヴァンギャルドの音楽論が、詩的言語論や美術論と共鳴関係にあること、そしてそこには、当時の思想や芸術の中に大きな流れとして存在していた宇宙論的=有機的世界観や四次元思想がしっかりと横たわっていることを示した。
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