5月に日本大学にて開催された日本独文学会春季研究発表会の枠内で,シンポジウム「固有名と虚構性」を企画し,司会者兼発表者として登壇した。そこではとりわけ文学的固有名の有する「錯覚形成作用」に着目しつつ,1800年前後から戦後までのドイツならびにオーストリア文学の諸作品の分析がなされた。前田はハイミート・フォン・ドーデラーとインゲボルク・バッハマンにおける地名の問題について,研究分担者の江口はジャン・パウルにおける「私」について,研究協力者の木戸繭子(中央大学)はトーマス・マンにおける「体を表す名」の機能について発表した。さらに小野寺賢一(大東文化大学)は,ヘルダーリンの詩における神話的名の機能について発表した。このシンポジウムの成果は,「独文学会研究叢書」として2018年5月にオンライン刊行される見込みである。 さらに三年間の共同研究の集大成として,2018年2月に東京大学本郷キャンパスにてシンポジウム「名前の詩学-文学作品における固有名と否定性の諸相」を企画し,前田は司会者兼発表者として登壇した。ここでは主に固有名における否定性と錯覚形成が問題となった。前田はバッハマン作品における固有名の空虚化について発表した。その他,宮田眞治(東京大学)はE・T・A・ホフマンとディドロにおける錯覚形成について,金志成(早稲田大学)はウーヴェ・ヨーンゾンにおける「ベルリン」の名の否定性について発表した。さらに平野嘉彦(東京大学名誉教授)がホメロスからツェラーンまでのテクストにおける否定詞について講演を行った。このシンポジウムについても論集としての刊行をすべく,現在準備中である。
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