研究課題/領域番号 |
15K02425
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大宮 有博 関西学院大学, 法学部, 教授 (20440654)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ルカによる福音書 / 徴税人 / ローマの属州支配 / ヨセフス |
研究実績の概要 |
2017年度は、特に前1世紀~後1世紀パレスチナ・ユダヤにおける徴税制度についてヨセフスの『古代誌』14巻~16巻を分析した。『古代誌』14巻に記録されているカエザルの勅令(前63年)の断片によると、カエザルはローマと契約をする徴税請負組合の徴税人をユダヤから引き上げた。この後、後70年までローマが徴税請負組合と、ユダヤでの徴税の契約を結ぶことはなかった。むしろローマにユダヤの税を貢納したのはエルサレムの指導者またはヘロデであった。また、『古代誌』14巻には、プトレマイオス朝の徴税人として、ユダヤの外で活躍したヨナテスに関する伝説が記録されており、少なくともローマ支配前のユダヤでは徴税人=悪人というわけではなかったことがうかがえる。このような分析の結果、もしかするとイエスが生きた時代から福音書が執筆された時代までのパレスチナ・ユダヤにおいてローマの税制度が人々の生活を圧迫していたと断定するだけの根拠を得ることはできなかった。1つの可能性として、ローマの税制度にあえいでいたのはシリアやアシアの属州であって、相当の恩恵を受けていたユダヤの人々はそれほど生活を脅かされたわけではないのではないだろうか。 もしそうだとすると、福音書に描かれるユダヤの人々(そしてミシュナーの筆者)が徴税人を嫌悪したのはどうしてなのかという疑問が出てくる。なぜこれらの文学は、徴税人を罪人と断定したのであろうか。この点を明らかにするための手がかりになるのが、ルカによる福音書の「ザアカイ物語」と「徴税人とファリサイ人の譬え」である。 なお、徴税人に関する文献的研究の他に、近年のエコロジカル聖書解釈の動向とその問題点をあらう論考「エコロジカル聖書解釈とは何か」を『キリスト教と文化研究』に掲載した。この研究は新約聖書が示す「共生」を明らかにするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルカによる福音書において「罪人」の代表格として登場する徴税人が、ローマ支配下のパレスチナ・ユダヤにおいてどのような存在かを明らかにすることができた。これまでの福音書研究において、徴税人は罪人=汚れた人々であるという考えがある程度定着していたが、これはこの研究において修正が必要であることが明らかとなった。これによって、いよいよルカによる福音書の釈義を行うことができるところまできた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はルカによる福音書の「徴税人ザアカイの回心物語」と「徴税人とファリサイ派のたとえ話」の釈義を行い、その成果を日本新約学会で発表する予定である。この研究によって次の点を明らかにする。 (1)イエスの時代から福音書執筆の時代までの間のパレスチナ・ユダヤ社会に徴税人はいたのか。主にヨセフスの文献を史料とする。 (2) この時代のユダヤ社会の人々は徴税人をどのように嫌悪していたのか。主にミシュナなどを史料とする。 (3) 福音書記者はなぜイエスが回心した徴税人と共に食事する場面を繰り返し描いたのはなぜか。この点は他の福音書と比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析対象となるルカ福音書の注解書の一部が2018年度出版予定のため、その購入に充当する。
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