本年度は2018年12月1日に京都大学で研究会「ルースキイ・ミールの多様性」を開催して、在外ロシア文化関係の蔵書を数多く所蔵するスラブ図書館の館長ルカーシュ・バプカ氏をチェコから招き、特別講演「プラハのスラブ図書館――中欧スラブ研究の宝箱」をお願いしたほか、日本における白系ロシア人研究の第一人者である澤田和彦・埼玉大学名誉教授にロシアで発見された新史料について、亡命ロシア映画の専門家である小川佐和子・京都大学助教には1920年代のフランス映画において亡命ロシア人が果たした役割について、ベールイの研究者である東和穂・東京大学大学院生にはアフリカにおけるベールイについて報告をお願いした。 そして、2月にはこれまでの研究の集大成として報告集「ルースキイ・ミール――文化共生のダイナミクス」を刊行したが、そこで研究代表者の諫早は在外ロシア芸術家と本国の関係について論考を著し、研究分担者の大平は戦間期プラハの文学結社「庵」についての論考とともにプラハ国民劇場のロシア人ダンサーについての論考を発表している。このほかこれまでの研究会で貴重な報告をしてくださった高橋健一郎・札幌大学教授は亡命ロシア人音楽家メトネルについて、小川佐和子氏は1920年代のフランスにおける亡命ロシア人映画について、東和穂氏はベールイの旅行記について論考を寄せてくださったので、戦間期を中心にした在外ロシアの芸術状況について、かつてなかったほど幅広い研究成果が公開できたと自負している。 これまで在外ロシア文化の中心はいわゆる亡命文学研究であり、芸術について論じる場合もバレエや音楽のような個別的な研究が主流だった現状に対して、本研究はより広い視野から在外ロシア文化を論じて新たな展望を切り開いたと考える。
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