本研究課題ではもともと南中国で流行し始めた地方色豊かな梁山伯、祝英台にまつわる伝説・物語が、千年以上の時間をかけて中国を代表する物語、そして無形文化遺産へと昇格していく過程と理由を解明することを主たる目的としていたが、三年間の研究期間でほぼ所期の目的を達成することができたと考える。 1.文献資料、映像・画像資料の体系的な収集と整理 中国の中山大学古文献研究所、北京師範大学、国会図書館などで梁祝故事を含む俗文学の文献資料を調査し、ジャンル・演目・上演(口述)地点などの基本情報を整理して電子化した。また、北京、上海、広州、寧波において映像資料(DVD・VCD)を購入・収集し、基本情報を整理して伝統芸能映像資料データベースの充実化をはかった。また写真などの画像資料についても整理を進め、金沢大学総合基盤メディアセンターの協力の下、横断検索が可能なデータベースを構築した。 2.作品の解読と考察、中国での梁祝故事の受容と民間信仰の実態調査 研究協力者の施盛凱氏の協力を得て関連する中国の地方劇・甬劇の整理を進め、「借妻」の校注、翻訳を作成した。また、梁祝故事の発祥地とされる江蘇省の宜興、浙江省の杭州、上虞で梁祝遺跡の現地調査を実施し、梁祝信仰や伝承、物語について先行研究(周静書1999、渡邊明次2006)や地元の人間の口碑を照らし合わせ、遺跡の現状や変化について検証した。 3.まとめ 収集した文献資料や映像資料を総合的に分析し、広範囲にわたる物語の異同から、浙江省寧波で発生した物語が全国へ展開していった可能性が高いことが確かめられた。また、物語の主要な舞台が浙江であることから越劇の演目に取り上げられ、1940年代以降、映画作品としての流通と中国共産党のお墨付きというメディアと権力両方からのバックアップを得たことで、一気に中国の四大伝説へと変貌を遂げる過程を明らかにした。
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