研究課題/領域番号 |
15K02434
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
許山 秀樹 静岡大学, 情報学部, 教授 (10257230)
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研究分担者 |
松尾 幸忠 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (20209505)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地方志 / 詩跡 / 漢詩 |
研究実績の概要 |
本年は、安徽省から河南省までの実地調査を行ない、その後、その成果を論文2篇にまとめた。まず、「安徽省『嘉慶合肥県志』における先行地理書の受容」では、『嘉慶合肥県志』がどのような態度で文学作品を見ているのかを検証した。先行地理書での文学作品受容態度をまず調査し、合肥関係の地理書は文学作品に比較的冷淡であったことを確認した。しかし、『嘉慶合肥県志』はその冷淡さがやや薄く、文学作品もある程度は価値を認めているように見受けられた。これが当時の地方志の潮流であったか否かは今後の検討課題である。 もう一つの研究実績は、安徽省附近に見られる「虞姫墓」である。「地理書に見える二つの虞姫墓と詩跡化」がそれである。現在はほぼ2つが現存するが、かつてはそれ以上作られていたらしい。多くの地理書や文学作品を通して、各地の虞姫墓の消長を調査した。その結果、後発の虞姫墓である宿州・霊璧の虞姫墓が地理的な問題がもっとも妥当であるという理由で知名度を上げていったと思われる。 安徽省の歌枕(詩跡)48箇所のデータベース化はまだ途上にある。安徽省の地方志は、およそ400種有る。総志(全国性区域志)のほか、省志に相当するものは『皖省志略』『安徽通志』など6種有り、この下に細分化された府志・県志・州志・郷志・村志などの方志が多数存在する。たとえば、蕪湖に関しても4種の『蕪湖県志』が存在しているので、記述も詳細なものから簡素なものまでさまざま存在するのである。現在進行中のデータベース化によって、たとえば虞姫墓の記述が各種の地方志の記述においてどのように変遷していったかを明らかにしつつある。この作業から、文学作品の多寡によって、その地域の歌枕(詩跡)の発展にどのような差異が生じたのかの検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに3篇の論文を公刊しており、順調に成果を挙げている。すでに準備中の論文も一篇有り、当初の予定よりも成果は多い。具体な成果は、1.「「濯纓」の解釈にみる詩的印象の形成―詩語と詩人像の受容のあり方をめぐって」(『中国詩文論叢』2015)、2.「安徽省『嘉慶合肥県志』における先行地理書の受容」(『情報学研究』2016)、3.「地理書に見える二つの虞姫墓と詩跡化」(『中国詩文論叢』2016)がそれにあたる。当初の計画通り、中国の南方地域に見える詩跡に重点を置いて、調査を進めてきた。 1.の論文では、江南地方で代表的な詩人屈原の故事「濯纓」について、原典での意味と詩語としての意味との間の乖離を論じた。 2.の論文では、方志にとって重要なポイントである詩句の引用に関して、歴史的な変遷を確認した後、『嘉慶合肥県志』がもつ中間的な立ち位置を明らかにした。 3.の論文では、安徽省附近にある複数の虞姫墓の知名度を歴史的に考察し、現在の代表的な虞姫墓である「霊璧虞姫墓」がなぜ著名になったのかを論じた。 以上の3篇の論文によって、安徽省・江南地方の詩跡に関して、懸案だった問題のいくつかを考察した。これによって、3年目の研究の基礎を固めることが可能になった。 その一方で、安徽省の歌枕(詩跡)48箇所のデータベース化はまだ完成していない。すでに安徽省の地理書の多くは入手済みであり、これを一つ一つ整理して、データベース化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
安徽省全体の地理書に対象を広げ、当時の地理書の潮流を探りたい。現在、安徽省の各種地理書にみえる詩跡関係のデータ整理を実施しており、これにより、その後の安徽省研究がやりやすくなるだろう。安徽省の各種地理書はpdfで入手しており、その入力は夏前後までに完成する予定である。その完成を待って、安徽省の詩跡がどのように記録されていったかを考証したい。 そのあと、江蘇・浙江・湖南の調査に移る。前年の安徽省での調査をモデルとして、文献上の考察を開始する。とりわけ、研究課題が多く、申請者が未調査で、中国古典文学の中心的舞台となった湖南は、文献研究を行って、多くの情報と文献・地図を収集したい。すでに、この湖南関連の調査は開始しており、とりわけ、屈原や賈誼に関する文献を調査している。
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