研究課題/領域番号 |
15K02448
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 純一 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30216395)
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研究分担者 |
西村 龍一 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (10241390)
山田 貞三 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50128237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタファー / メディア / システム / テクスト / 批評 |
研究実績の概要 |
研究計画に従い、平成27年度は、まず最初に「メタファー」と「メディア」の構造ならびに概念的な関連付けに関する理論仮説を立てることを目標においたが、暫定的に、キー概念となるものは、「接続・切断・観察・メタ化」であることが確認された。また、この作業では、両者における理論的研究史の整理・比較考量のみならず、周辺領域における関連理論を幅広く検討し、有効性が認められるものを取り入れていくことも視野に入れて進められた。具体的なものを挙げれば、①古典的隠喩論(アリストテレス、リチャーズ、ヴァインリッヒ等)、②現代隠喩論(リクール、レヴィン、ビアズリー、ソシュール)、③認知理論・身体メタファー理論(レイコフ等)、④エクリチュール論・テクスト論(デリダ、クリステヴァ等の間テクスト理論、エクリチュール論等)、⑤メディア理論・批評理論とメタファー(ベンヤミン、ボルツ等)、⑥批判理論・コミュニケーション理論(アドルノ、ハーバマス等)、⑦社会システム理論(ルーマン、フックス等)、⑧美学におけるメディア機能・メタファー理論(シュヴァニッツ、ヘリッシュ等)となる。予備的な研究からも、これらを束ねるのは、メタファーの「同一/非同一」差異(意味論)およびメディアの「同一化/非同一化」同一化(機能論)の相互依存的なメカニズムであると考えられる。また、年度の後半においては、具体的な素材として分析対象とするテクストの候補の選定と分析方法の検討もおこなわれた。当初の計画通り、とりあえず以下のような時代区分をとったが、素材あるいはテーマによって必ずしもこの区分に捉われない方針とした。(①ロマン派から19世紀、②世紀末から20世紀初頭、③20世紀前半、④第二次世界大戦前後、⑤20世紀後半から現代)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的な側面においては、予備研究のなかで想定していた、「メタファーとメディア」の機能的な関係性が明らかにされた。すなわち、意味の観察を二重化し、本義と転義を一時的に切り離した後に、両者を再び接続する機能を、広義のメディア・コミュニケーション活動一般とその継続を可能にする基底的なメディア原理と仮定し、その機能が様々なテクストないしアート作品に関する理論的な共通項として確認されつつあることが挙げられる。このことはメタファーの二重化と再帰的な構造が、極めて複雑なテクストないしコミュニケーション・システムを構成する基底的メディア原理であり、これを一般化し、整合的に体系化しようという本研究の試みにも極めて有意義な意味を持っていると考えられる。いくつかの理論的な分野における検証に関して、まだ最終的な結論に至っていないものもあるが、基本的に理論的な予備研究が当初の仮定と一致している点、およびその結果、次年度以降における具体的なテクスト、アート作品等の詳細な分析に関して、計画通りの作業を進めることが可能になったこと等の点から、本研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における理論的な特徴を言い換えれば、メタファーの二重化と再帰的な構造が、極めて複雑なテクストないしコミュニケーション・システムを構成する基底的メディア原理であること、これを一般化し、整合的に体系化しようと試みるものである。また、メタファーを、メタレベル、オブジェクト両レベルにおける、差異化と同一化による(二重化と仲介による)テクストないしコミュニケーションの再生産システムと捉え、理論および具体例(近現代のドイツ語圏の文学・哲学・社会思想・美学・批評テクストを中心とする)に即した総合的な分析と検討が課題となっている。「異なるものの一時的重ね合わせによる意味の二重化状態」ともいえるメタファーのメカニズムは、認知発見的(科学)、芸術創造的(美学)、言語認識的(哲学)、システム形成的(社会学)等、それぞれの領域において構築と解体の両義的な役割を負託され、またその機能を対象に適応した形で果たしている。その広がりは、極めて多様に思われるテクストの特殊性を、逆説的に集約する普遍的原理として、このメタファーの二重化現象が機能していることを窺わせる。このような絡繰りを、可能な限り明確な形で可視化、言語化していくことが推進方策である。そのためには、研究計画にも挙げているように、具体的な作品分析を丁寧に積み重ねていくことが、何よりも肝要な作業となるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
会計手続(支払処理期日)により3月に購入した物品の経費の支払が翌月次年度4月となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の次年度使用額は実際上はすでに購入手続が全て(納品まで)完了しており,4月中に支払まで完了する予定である。
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