研究課題/領域番号 |
15K02451
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
宇戸 清治 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (30185053)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タイ / 古典文学 / クンチャーン・クンペーン物語 / パーレーライ寺壁画 |
研究実績の概要 |
(1)一時資料の解読、比較分析、翻訳:前年度の収集した『クンチャーン・クンペーン物語ワット・コ本』と過去に収集した『ワチラヤーン図書館本』『サミット図書館本』の解読と比較分析に大いに進展があり、『ワット・コ本』が最も古いバージョンであるとの確信が得られた。他の二つのバージョンはタイ国内制度の近代化を進めたラーマ五世時代の指導者の一人であったダムロンラーチャヌパープ親王による古典文学全般の編纂・出版方針(タイ文化の劣後性の否定)の影響が出たものと現時点では推測している。これらに伴って、研究と同時並行で進めている翻訳では、『ワット・コ本』を中心とし、過去の翻訳についてもその方針に沿って修正を施した。 (2)タイ古典文学研究・翻訳者との知見交換の進展:タイ歴史・政治・経済の研究者として世界的に著名なクリス・ベーカー氏とチュラーロンコーン大学名誉教授パースック・ポンパイチット氏(共に2017年度福岡アジア文化賞大賞受賞)との29年9月、30年1月の研究協力を通じて、『クンチャーン・クンペーン物語』の成立・変容過程について貴重な知見を得た。また上記福岡アジア文化賞の受賞講演では、国内で唯一のタイ古典文学研究者としてコメンテーターを務めた。 (3)物語の回廊壁画のデータ収集:物語の主舞台であるアユタヤー市クンペーン資料館、スパンブリー市パーレーライ寺、カーンチャナブリー市バーンタム寺を訪問調査し、後者の2寺院では物語の回廊壁画や主要登場人物の彫像を全て撮影。所蔵品の調査、新画を描いた画伯からの聞き取り調査(所蔵されていた過去の壁画の画像収集を含む)を行った。これらは最終の報告書に掲載する予定で、全てが公開されるのは世界でも初めてのこととなる。 (4)翻訳の公開:研究と同時並行で進めている翻訳は、今年度も年間を通じて現地邦字新聞『タイ国経済』(日刊と週刊の2種)に掲載し、好評を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度末に過去2年間の研究成果を『タイ古典文学と「クンチャーン・クンペーン」物語』として刊行したが、同刊行物での研究は、最もよく知られた『ワチラヤーン図書館本』を中心としており、最も古いバージョンと思われる『ワット・コ本』との比較研究の深化の必要性が痛感された。今年度はそこに重点を置いて研究と翻訳を進めたが、やや時間不足の嫌いがあった。そのため研究期間の延長を申請し、これが認められたので、30年度中には全ての課題を完遂させられる見通しがたった。パーレーライ寺の物語壁画については29年度に寺院の許可を得て撮影を行ったものの、壁画の位置が高所であったにもかかわらず、三脚等の機材の準備がなく、結果的に不完全な撮影画像となった。公刊予定の研究成果の付録とするにはより鮮明な画像が要求されるので、30年度は再度撮影を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たるので、『ワチラヤーン図書館本』、『サミット図書館本』、『ワット・コ本』の比較研究の総仕上げを行う。この場合、物語内容の比較を軸に据えた文学的アプローチ、歴史事象、位階制度、冠婚葬祭、商業流通、祭祀と呪術、階層別の価値意識、宮廷内御法度といった観点を中心に据えた社会史的アプローチ、諺、格言、慣用表現、親族用語、人称代名詞といった観点からの言語学的アプローチによる総合的研究となる。最終的な報告書には、古代武器、庶民・官僚・王侯貴族の服飾、物語壁画などのイラストや撮影画像をつける予定である。『ワット・コ版』をメインに据えた全編の翻訳を別冊付録とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費支出が古くなったノートパソコンの買い換えにとどまり、前年度までに購入した記憶媒体、印刷用紙、筆記具などに残りがあって、物品費支出が当初予定より少なくなったため。また、人件費・謝礼については滞在中の友人の好意で自動車借り上げ費用、撮影費用などの支出が発生しなかったため。 (使用計画) 最終年度にあたる30年度は研究成果報告書作成のための編集に関する物品費、壁画撮影のための海外旅費、編集補助謝礼、その他(主として印刷経費)とする予定である。
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