2018年度は研究の最終年度にあたるため、総決算に相応しい下記の課題の遂行に集中した。(1)まず、過去3年間に収集した王立図書館本、サミット図書館本、最も古い物語構造を残しているワット・コ寺院の三種の『クンチャーン・クンペーン物語』の解読と比較分析を徹底して行った。併せて、ダムロンラーチャヌパープ親王、スチット・ウォンテート、パースック・ポンパイチット、クリ・ベイカーに代表されるタイおよび欧米のタイ古典文学研究者の諸論考を読み解き、多くの知見を得た。 (2)4年間の研究成果として特筆すべきは、現在入手可能な『クンチャーン・クンペーン物語』は、バンコク王朝のラーマ一世時代(1782-1808)にアユタヤー時代からの口伝を元に再構成の形で編修されたものを基盤に、それ以降ラーマ五世時代(1868-1910)まで、周辺国との関係や欧米との交流、資本主義経済の導入、社会構造の変化などの影響を受けて絶えず改編ないし追加された結果としての文化遺産であることが分かったことである。 (3)2018年度は上記の課題遂行のため、タイでの現地調査はあえて行わず、研究成果報告書と邦訳の完成に注力した。その結果、2019年3月には研究成果と邦訳を一冊にまとめた『タイの古典文学と「クンチャーン・クンペーン物語」』(全247頁)を刊行することができた。ただし、邦訳に関しては時間的制約のため全訳が敵わず、全36章中の24章までを掲載するに留まった。残りの章については2019年中に終える見込みである。
|