研究課題/領域番号 |
15K02452
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
清水 恵美子 茨城大学, 社会連携センター, 准教授 (20531734)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 比較文学論 / 日本美術史 / 芸術思想 / 岡倉覚三 / 岡倉由三郎 / 文化交流 / 岡倉天心 / 多文化共生 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、12月28日より29年1月2日まで、英国の大英博物館、ヴィクトリア&アルバート美術館などの関連施設において、岡倉覚三の欧州視察日誌に記載された美術品の実見、学芸員との意見交換、岡倉由三郎の英国留学に関する資料調査を実施した。また、茨城県天心記念五浦美術館において複数回調査を行い、収集した関連資料の分析と考察にあたった。 研究成果は講演や口頭発表を通して社会に発信した。「岡倉天心 五浦から世界へ」(茨城新聞合同政経懇話会、28年8月)、「岡倉天心とオペラ《白狐》」(江戸千家高田不白会記念講演、28年9月)、「講演と演奏の夕べ 天心の言葉の宇宙―漢詩と英語を巡って」(観月会2016、28年10月)、「五浦の10年を考える―岡倉覚三(天心)と日本美術院の五浦時代」(茨城県近現代史研究会1月例会、29年1月)などがあげられる。 特に28年9月に開催した茨城大学主催「国際岡倉天心シンポジウム2016」では企画・監修を担当し、学内外の研究者とともに研究成果を発表した。シンポジウム1日目は「『茶の本』とオペラ《白狐》」を報告、パネル・ディスカッション「天心の思想と現代的意義を探る」に参加した。2日目はオペラ《白狐》ハイライト公演の解説をつとめた。 また、論文は「岡倉覚三の英文著作―明治維新観を中心として」(『英語学論説資料』48号:『五浦論叢』21号の再録)をはじめ、「日本美術院の五浦移転と茨城県」(『茨城史林』40号)、「岡倉覚三書簡・岡倉由三郎関連資料」(『五浦論叢』23号) を発表した。 29年1月には、上記の研究成果をまとめた単著『洋々無限―岡倉天心・覚三と由三郎』(256頁)を里文出版から刊行した。 由三郎の人生を主軸に、覚三の人生を補助線として、各自の活動を交互に照射することで、時折交錯し、影響しあう二人の関係性を浮き彫りにし、思想の共通性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① 岡倉覚三と岡倉由三郎の英文著作の比較・分析をまとめて出版することは、本研究の目標であったが、予定より早く平成29年1月に、、単著『洋々無限―岡倉天心・覚三と由三郎』(256頁、里文出版)を刊行することができた。本書において、覚三は美術、由三郎は言語という異なる分析視座から「日本」をどのように捉え、論じたのか、比較して考察した。その中心の一つとして、覚三が米国で出版した『茶の本』と、一年先駆けて英国で出版された由三郎の『ザ・ジャパニーズ・スピリット』の共通性を対比させた。また覚三の没後に由三郎が発足した「洋々塾」において、村岡博による和訳を連載し、『茶の本』を岩波文庫から刊行させたことを確認した。日米印の美術交流に果たした覚三の功績の大きさと、由三郎が覚三の思想を理解し、その遺志を継いだことを指摘した。
② 資料調査とデータベース化については、茨城県天心記念五浦美術館、ロンドンの関連施設が収集する資料調査を行った。江戸千家が所蔵する岡倉覚三書簡と天心記念五浦美術館にて発見した岡倉由三郎と日本美術院同人との書簡を翻刻し、予定通り『五浦論叢』第23号(茨城大学五浦美術文化研究所)に発表した。また、ロンドンの関連施設では岡倉覚三の欧州視察に記載された美術品を確認し、新資料を発掘した。
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今後の研究の推進方策 |
① 平成28年度は研究成果を単著にまとめることができたが、執筆の過程で、由三郎が美術への造詣が深く、その芸術思想についても研究の余地があることを認識した。また由三郎の2冊目の英文著作は、いまだ和訳が出版されておらず、彼が西欧でいかなる「日本」を語ったのかより深く考察するために、翻訳作業が必要である。平成29年度は、単著出版後に生じたこれらの課題に取り組む。
② 資料調査とデータベース化については、本年度に引き続き茨城県天心記念五浦美術館において調査を行う。由三郎の資料調査の過程で、覚三没後に新納忠之介とボストン美術館との橋渡しをしていたことが明らかになったが、五浦美術館に新たに新納忠之介関連資料が所蔵されたことから、これらの資料を照合しながら、分析していく予定である。また、由三郎の留学時における美術体験を追究するために、ヨーロッパの関連施設と連絡をとり、調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料調査後のデータベース化において、研究協力者に謝金を支払うことが想定されたため、「人件費・謝金」を計上したが、平成28年度は申請者自身が資料の翻訳や筆耕を行ったため、協力者への依頼を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も国内外で資料調査を行い、その成果を基に研究を発展させていくため、翻訳や筆耕の専門家などの研究協力者に謝金を支払う予定である。
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