研究課題/領域番号 |
15K02453
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤石 貴代 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20262420)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国民文学 / 国民詩人 / 国民詩 / 金鍾漢 / 則武三雄 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,1940年代前半期の朝鮮半島で唯一,発行を許可された月刊文芸誌『国民文学』(1941.11~1945.5通巻39号)誌の精読を基に,国民文学(論)を主導した『国民文学』誌編集者であった金鍾漢,及び同誌主幹の崔載端(1908-64)が提唱した「国民文学論」を,日本帝国主義に対する抵抗か屈従(親日)かの政治的二項対立からの評価ではなく,朝鮮文人たちの朝鮮(語)文学存続のための試論として捉え直し,その内容と変化を明らかにすることである.初年度に続き,報告者が書誌的な研究に取組んできた金鍾漢について,在朝日本人作家による同時代評に着目した。これについては,韓国科学技術大学の郭炯徳教授が『近代書誌』第12号(近代書誌学会,ソウル,2015年12月)に解説を付して発掘紹介した「則武三雄『金鍾漢の思ひ出』」が注目すべき資料である。この回想文が掲載された『國民詩人』1944年12月号(第4巻4号)は,報告者が入手した『國民詩人』第5巻1号(1945年1月号)とは別物であり,1944年10月号が創刊号と推測される同誌のうち2冊について実物が確認されたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1944年6月に至り,『四季』『歴程』『蝋人形』など錚々たる詩雑誌が「綜合詩誌」と銘打つ『詩研究』に統合され,「情報局・出版會御指導のもと,新使命達成のために,勇躍前進」(『詩研究』創刊号)することが宣言された。「新使命達成」のための「国民詩」概念が成立する過程を調査中である。朝鮮半島については,嚴仁卿『文学雑誌『国民詩歌』と韓半島の日本語詩歌文学』及び『日本語詩歌資料翻訳集』(亦楽,ソウル,2015)を入手して検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
韓国で金鍾漢に関する論考が相次いで発表されている。朴チヨン「金鍾漢『庭園師(園丁)』論」(『民族文学史研究』vol.56 2014),同「金鍾漢『雪白集』研究:翻訳と日帝末期朝鮮文学の混種性」(『世界文学比較研究』vol.53 世界文学比較学会 2015),金イクキュン「詩人金鍾漢の誕生と民謡論」(韓国詩学会学術大会論文集 2016.5),朴スヨン「日帝末 韓国文学のローカリズムに対する内部と外部の視角:金鍾漢を中心に」(『韓国文学理論と批評』第20巻第2号 2016)等である。1940年代前半期の文学の枠組みを「親日文学」から「国民文学」へと転換する議論の深化を跡づける。
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次年度使用額が生じた理由 |
韓国内刊行雑誌掲載論文のほとんどは有料公開であるが,韓国国外発行信用カードでの決済(購入)が難しい。そのため,韓国での資料調査を予定したが,費用対効果に見合うだけの調査期間を確保できなかった。また,初年度調査の過程で,『國民文學』主幹の崔載端の恩師であり,英文学者で詩人の佐藤清(1885-1960)と,新潟の詩人,浅井十三郎(1908-56 本名,関矢与三郎)との交流が明らかになり,2016年は浅井の没後60年であることから,郷土の先輩詩人である浅井に持続的に関心を寄せてきた新潟在住の詩人たちに打診して,研究セミナーの開催を企図したが,事情により実現できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
韓国での資料調査(閲覧・複写),あるいは日本国内の電子ジャーナル提携機関(九州大学,仏教大学など)において,費用対効果に見合うだけの調査期間を確保する。 新潟在住の現役詩人たちと共同で,浅井十三郎に関する研究セミナーを開催する。
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