研究課題/領域番号 |
15K02458
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
高西 成介 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (50316147)
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研究分担者 |
山口 善成 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (60364139)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 翻訳 / 注釈 / 中国文学 / アメリカ文学 / 歴史的研究 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、中国文学に関しては研究代表者が、米国文学に関しては研究分担者が、それぞれが基礎的な資料の収集と分析を行った。また、研究会を実施し、ゲストスピーカーから情報の提供を受けるとともに、研究発表と活発な議論を通じて研究の共有と深化を図った。個別研究の成果に関しては、次の通りである。 高西は、翻訳と注釈について、中国文学研究における現状と課題を整理し、本研究の方向性を明らかにすることにつとめた。さらに、明治期における文言小説の翻訳について、資料を収集し整理をするとともに、とりわけ明治18年に出版された『妖怪府』について基礎的な分析を行った。さらに、それと並行して、『世説新語』劉孝標注の読解を進めたが、注釈に関する分析、考察までには至らなかった。 山口は、歴史記述の分野における注釈の実践について理論的な考察を行った。6月の研究発表「伝記作家の声:Jared Sparksの歴史記述における史的客観性と脚注的想像力」では、19世紀初頭の歴史家Jared Sparksの歴史記述をめぐる論争を題材に、当時の実証主義的な歴史記述が抱えていた史的客観性と文学的想像力の葛藤の問題を論じた。また、近く国際誌に出版される論文 “‘Collect, Preserve and Communicate’: Jeremy Belknap’s Republic of Letters and the Problems of Early American History Writing” は、本研究課題のスピンオフとして、史料の管理や整頓の仕方に関わる問題を18世紀末アメリカの歴史記述の例から論じ、同じ問題が現在の電子化時代の史料管理にもあてはまることを指摘した。 この他にはJames Baldwinの創作スタイルに関する論考一篇、Francis Parkmanの歴史記述に関する論考二篇を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、当初の計画通り、個別研究を中心に基礎的な資料収集と資料の読解を精力的に行い、一部に関してはその分析にまで入っている。また、11月にはゲストスピーカーを招いての公開研究会を実施し、研究発表と討論を実施した。さらに、研究代表者と研究協力者が同じ大学に所属することの利点を生かし、日常的に研究の交流をはかっている。これらを総合すると、おおむね順調に研究は進展しているといえよう。なお、個別の研究の進捗状況は以下のようになっている。 高西はまず、注釈と翻訳を研究することの今日的意義及び、異なる分野の文学研究者が共同で研究することの意義についてあらためて整理を行い、11月の研究会で発表した。また、明治期から大正期にかけての中国文言小説に関する翻訳の資料収集を行った。リストアップは8割方完了している。なかでも、明治18年に出版された『妖怪府』は興味深い資料であり、林羅山『怪談全書』との文体比較、さらにはそこに付された注釈についての分析を行い、9月に研究会でその成果の一部を報告した。また、注釈に関しては、『世説新語』劉孝標注に注目し、資料の読解を進めている。 山口は自身が研究代表のプロジェクト(「注釈の意義に関する理論的・実践的研究」(若手研究B))の最終年度と重なり、注釈行為が有す創造的な役割や可能性については一定の成果をまとめることができた。本文を傍証する客観性の装置である注釈には、本文とは別の種類の創造性が働いていることを指摘した。また、注釈(脚注)という周縁テクストの主役である資料の扱い方についても議論を広げることができた。主には18世紀末アメリカの歴史記述事業を題材に扱ったが、同じ問題は現代のデジタル・アーカイヴにも通ずることを指摘した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、前年度に引き続き各人が個別研究をすすめる。それとともに、それぞれの研究成果を研究会などを通じて互いにフィードバックしながら、次のステップへと移行をはかりたい。 注釈の意義に関する議論については、研究分担者の山口により、英米文学分野についてすでに一定の成果がまとめられた。今年度は、高西による中国古典文学における注釈研究の成果やその他の分野の注釈研究と比較対照するプロセスに入る。これによって、通常接点を持たない文学研究分野同士が新たな視点や方法を提供しあうことができればと考えている。とりわけ、山口が指摘した史的客観性と文学的想像力の葛藤の問題について、普遍的な観点から再検討を試みてみたい。 翻訳研究に関しては、高西は引き続き明治期から大正期にかけての中国文言小説の翻訳に関する資料収集をおこない、具体的な分析を進める。山口も、本年度はこの翻訳に重点を置いて研究を進める予定である。翻訳は長く無職透明であることに価値を置かれてきたが、昨今では翻訳(家)が自身の色を出すことに自意識的になっている。翻訳実践が持つ想像的/創造的な可能性について、英米文学研究の立場から考察したい。さらに、こうした個別研究をふまえ、広く外国文学の翻訳という視点から、共同して研究の深化をはかりたいと考えている。 また、本年度は外国文学の翻訳に関するシンポジウムを開催することを予定している。このことにより、新たな研究の視座が生まれることが期待できるとともに、研究成果を社会へと積極的に還元していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた国会図書館における実地調査を、予定通り実施できなかった。次年度使用額が出たのは、この理由による。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度予定していた国会図書館における実地調査を、次年度実施する。
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