最終年度は、研究代表者と分担者がそれぞれ「注釈」と「翻訳」に関して個別の研究を深めるとともに、同一機関に所属していることを最大限に生かし、日常的に様々な議論を行いながら、研究の深化及び研究の統合を図ることにつとめた。その結果、「注釈」「翻訳」の諸相を改めて「注釈」及び「翻訳」そのものもまた、解釈したり分析したりすることが可能な自立したテクストであることが明らかになってきた。これは、三年間にわたる共同研究の一つの大きな成果だといえよう。また、個別研究における成果は、以下に記す通りである。 高西は、注釈に関しては『世説新語』劉孝標注の分析を進めた。また、『世説新語』劉孝標注に引かれた志怪小説を取り上げ、注釈が結果として本文の読みを拡張していく働きをすること、本文と切り離し劉孝標の注釈を自立したテクストとしてみなせば、注釈はそれ自体で一つの世界観を隠し持っている可能性があること、などを学会において口頭発表した。翻訳に関しては、明治に出版された中国文言小説の翻訳である『妖怪府』に着目し、その序文の妖怪観に関して口頭発表するとともに、論文を発表した。 山口は、Washington Irvingの注釈パロディに関する分析から発展させ、Irvingを中心とする最初期のアメリカ文学作家たちの間にあった二次創作文化について考察した。その結果、まだ確固とした特徴も代表的な作家・作品群もなかった最初期のアメリカ文学が自己形成を試みる際、それぞれの作家・作品の自律性や独創性に基礎を置くよりも、共有しうるキャラクターを二次創作し、広く流通させることに価値を見出す傾向があったということを明らかにした。 翻訳に関する研究については、The Woman Warriorに関する論考を仕上げ、共著書の一部として出版準備段階まで至っている。2018年度中に書籍全体を脱稿し、出版される予定である。
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