研究課題/領域番号 |
15K02461
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
須藤 直人 立命館大学, 文学部, 教授 (60411138)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポストコロニアル / 比較日本文化論 / 太平洋 / 群島 / 先住民 / 遊動 / ユートピア |
研究実績の概要 |
太平洋世界の異種族間交渉という視点で、「先住民」「遊動」をキー・ワードとして、森鴎外の小説「舞姫」、芥川竜之介の小説(「大人向け御伽噺」)「馬の脚」、新美南吉の童話「ごん狐」(権狐)、手塚治虫のマンガ「火の鳥」の再解釈を進めた。1967年連載された手塚「火の鳥・黎明編」は、主として古代オリエント、ギリシャ、及び日本の神話や古代漢籍の要素、アメリカ植民地言説、最新の古代日本史学説を折り合わせた基盤を持つ、ハイブリッドなテクストである。またそれは、先住民・小さき者・滅びゆく者に焦点を当てた脱中心的テクストである。こうした「火の鳥」に関する読みは、実は1890年発表の森鴎外「舞姫」に適用できる。「舞姫」は、19世紀ヨーロッパのロマン主義文学の潮流を日本の近代文学の黎明に応用したテクストであったと考えられる。テクストにおける、古典文学(ギリシャ・ローマ及び日本神話)とアメリカ植民地の言説要素を抽出することができた。従来、主として作者鴎外のベルリン留学体験を基軸とした見方で研究が蓄積されてきた同テクストは、先行テクスト群の書き換え・組み合わせとして、啓蒙主義的・欧化主義的・異化的でありながら、啓蒙・欧化に抗する回帰・同化的要素を持ったハイブリッドなテクストの相貌を帯び、新たな重要性を帯びることが説明できる。「舞姫」と「火の鳥・黎明編」はいずれも、敗者となり移動を余儀なくされて遊動民と化した先住民を憐れみ、同時に新たな可能性を見出す、日本文化を再考するうえで重要なテクストである。両テクストとさらに上記芥川竜之介・新美南吉のテクストに描かれた「先住民」の遊動は、柳田国男が展開した「山人論」を応用することにより、その意義と限界性もまた浮かび上がることが分かった。「山人論」の先住民・異民族論、遊動・ユートピア論を軸とする、ジャンルを超えた文学文化論が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
必要な研究の理論的基盤として、ポストコロニアル文化論、環境人文学論、比較文学・世界文学論、神話・民話論、遊動・定住論、先住民論、南島論、妖怪学、キリスト教・博物学・太平洋戦争を軸とする比較日本文化論が考えられる。これらを押さえ、鍵となる柳田国男の著作の内容の再検討を進めながら、柳田の議論を森鴎外、芥川竜之介、新美南吉、中島敦、手塚治虫等の文化テクストの分析解釈に応用する作業を同時並行して進めている。論文発表等の具体的な成果は得られていないが、これだけの多岐にわたる資料の収集と消化・吸収・分析には相応の難しさがある中で、上記の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、理論面での拡充・研鑽を行い、柳田国男の著作についての再検討を進める。森鴎外、芥川竜之介、新美南吉の文学テクストに関し、さらに精緻な分析を行う。そうした成果として論文執筆を進めて行く。加えて、水木しげるの文化テクストを分析していく予定である。また、日本列島とミクロネシア、メラネシア、ポリネシアとを繋げた文学文化論研究を試みる予定である。
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