研究課題/領域番号 |
15K02461
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
須藤 直人 立命館大学, 文学部, 教授 (60411138)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポストコロニアル / 比較文学 / 比較文化 / 太平洋世界 / 山人 / 先住民 / 妖怪 |
研究実績の概要 |
主として国外で論じられているポストコロニアル文化論・環境人文学・ポストヒューマニズム論を参照・検討しながら、近現代日本の文学・文化テクストにおける<先住民/移民>、<漂泊民/定住民>、<山民・海民/平地民>、<動物・妖怪・幽霊/人間>の関係の問題とこれらの相互関連、これらと関わる神話・伝承の翻案、ジェンダー、子ども観の問題を考察した。 具体的には、明治末・大正期の柳田国男の「山人」をめぐる論考を参照軸に、森鴎外「舞姫」、芥川竜之介「馬の脚」、政岡憲三「くもとちゅうりっぷ」、中島敦「わが西遊記」「山月記」、新美南吉「ごん狐」、水木しげる「墓場鬼太郎」、手塚治虫「火の鳥」、宮崎駿「もののけ姫」を分析対象テクストに据えた。柳田の「山人」(妖怪、国津神=先住民系)の存在探求は民俗学的には挫折したとしても、「山人」「特殊民」(漂泊・遊芸民系)や彼らに対する同情・憐憫・憧憬は、上記の文学・文化テクストに共通し、連綿として引き継がれていることが見出せる。これらのテクストにおいて太平洋世界の山海に出没・移動する先住民・漂泊民・動物・妖怪等として描かれている主人公達は、境界上の<孤児>であり、侵略者・支配層(移民・定住民・人間)による同化吸収や滅亡の脅威の下に置かれた<小さき者>であり、愛するものを捨てる<裏切者>であり、最終的な<救済>が期待される。<救済>には帰順・同化(「舞姫」「わが西遊記」「くもとちゅうりっぷ」)、逃亡・変身(「馬の脚」「ごん狐」「山月記」「墓場鬼太郎」「火の鳥」「もののけ姫」)の型があり、さらなる分類も可能である。 本研究は従来別個に扱われてきたこれら文学・文化テクスト群に連関を見出し、民俗世界では失われた太平洋世界の「山人」(先住民)が姿形を変えながら欧米や日本の神話・古典文学・植民地言説の型と結びつき、表象文化の中で生き残ってきたことを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
分析対象とする文学・文化テクストの選定・確定にやや困難があった。柳田国男の「山人論」の観点により文学・文化テクストの再読を試みる中で、予想以上にテクストの発見があった。そのためテクストの類型化を再考し、議論の再整理が必要となった。テクストの発見、選定、類型化という研究全体にかかわる作業に努力を傾けた結果、個々のテクストについて論じた個別の論文の執筆作業に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
分析対象テクストに宮沢賢治「風の又三郎」、坂口安吾「新日本地理」、遠藤周作「沈黙」を加え、研究をまとめる。太平洋世界における環境と人間の変容及び相互変容の中で、柳田国男が焦点を当て発見できなかった「山人」と消滅した「特殊民」が、文学・文化テクストにおいて象徴的にどのように生き残ってきたか、想像上どのように救済されてきたかを探求する。方法論的には、アエネーイス等の古典に通じて行くポカホンタス、インクルとヤリコ等の一連の植民地主義言説や、日本神話の天孫降臨、国津神サルタヒコへの着眼に加え、<縄文と海民>という視点、<かくれキリシタン>の救済というテーマを、ポストコロニアル論、環境人文学、ポストヒューマニズム論と結び合わせる。
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