研究課題/領域番号 |
15K02462
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
西 成彦 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (40172621)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 語圏 / 帝国の言語 / ディアスポラの言語 / 比較文学 / マイナー文学 |
研究実績の概要 |
「日本語圏文学」に関しては、所期の予定通り、蓄積した研究成果の発信に努めることができた。またカリブ海地域やアフリカにおける「英語圏文学」の広がりと多様性についても折を見ながら、研究交流の機会を通して研鑽を重ねつつある。やや残念なのは「オランダ語圏文学」に関する調査と研究が滞ったことだが、下記のようにイスラエルの演劇研究者をお招きできたことで、「語圏」なる概念の適用範囲を「大言語」に限らないで、「小言語」にまで拡大できるという実感が得られたのが、初年度における大きな成果であった。以下、そこで得られた知見の概要を記す。 そもそも明治以降の「日本語文学」は、アイヌ系マイノリティや琉球系マイノリティを巻きこみ、さらには台湾や朝鮮半島、満州の現地人のなかからも「日本語作家」を生み出すことによって、「帝国の言語」としての「日本語」の汎用性を担保するものであった。しかし、北米・南米に移住した移民の日本語使用を考える場合、そこには「ディアスポラの言語」としての「日本語」の離散というもう一つの側面が伴っていた。 平成27年度にイスラエルからツヴィカ・セルペルさんをお招きし、東京大学で催したシンポジウムを経ることで確認できたのは、「イディッシュ語」という「ディアスポラの言語」を介した演劇実験が獲得しえた「世界性」であった。 つまり「帝国の言語」と「ディアスポラの言語」は、異なるカテゴリーに属するとは限らず、「帝国の言語」による文学創造と「ディアスポラの言語」による文学創造は、「世界文学」という空間においては「共振」する関係のなかにあるということである。敢えて言えば、カフカのドイツ語使用と、バシェヴィス=シンガーのイディッシュ語使用は、対立ではなく、「共振」しているはずなのである。このことは、ドゥルーズ&ガタリの提唱した「マイナー文学」なる概念を考える上でも重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「日本語文学」の敗戦前、および敗戦後の様態をめぐる研究は、順調に進んでおり、その成果をまとめる作業も最終段階に入っている。「帝国の言語」としての日本語が「ディアスポラの言語」として使用される事例として、在日外国人の文学と、日本人移住地の文学をともに視野に入れることの重要性を確信している。 他方、英語圏、フランス語圏、スペイン語圏、ポルトガル語圏、オランダ語圏の文学を考えるにあたっては、南北アメリカの事例を中心に取り上げようと考えているが、とりわけ「カリブ海地域」の文学が「語圏」と「語圏」とを横断する、極めて複雑な動きを示している現状に関しては、いまだ十分な調査や、分析枠組を組み立てられずにいる。
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今後の研究の推進方策 |
「帝国の言語」を「ディアスポラの言語」として継承したまま、さらに「語圏」の外に出て、新しい言語を後天的に習得しながら「ディアスポラの文学」を立ち上げる作家として、カリブ海地域出身の北米作家や英国作家、さらにはクレオール言語を母語とする英語作家やフランス語作家、またクレオール語を用いる「ディアスポラ作家」を広く調査することで「語圏を構成する言語」を「非本質主義」的にとらえる現代作家の様態を理解するための研究を深めたい。 これは日本語作家のなかでリービ英雄や温又柔が示している特徴ともつながるものであり、現代文学における「移動」という主題を「語圏横断」という観点から見ることをも意味するはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
微額であったため、無理な執行は行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年年度の計画のなかで、適正に執行する。
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